「どうして私を憎む?いや、なぜ正義を憎むのだ?」
と正義の味方が悪党のボスに叫んだ。
悪党のボスは、目を真っ赤にしながら正義の味方を指差して、それに答えた。
「お前が世間知らずだからだ!!・・・貴様は世の中の事を何も分かっていない。何一つとしてだ!
オレは貴様の事をよく知っている。しかし、お前は私の事を何も知らない。
貴様は知らんだろう。スラム街での生活が、いかに悲惨なのかを。
・・・そこで暮らす若者達が何故、悪の道へと走るのか分からんだろう?
そんな貴様が正義を名乗るのが、俺には我慢がならんのだ!!」
スキが出来たその瞬間を正義の味方は見逃さなかった。
正義の味方が悪党に空手チョップを食らわせると、悪党は爆弾のスイッチを落とした。
二人は取っ組み合いになった。
長いあいだ二人は取っ組み合った。
悪党が正義の味方の脇腹にパンチを入れると、正義の味方はよろめき屋上の手すりを乗り越え向こう側に落ちた。
正義の味方はそのまま滑り落ち、片手で手すりをつかまえたまま宙ぶらりんになった。
200メートル下に落ちれば正義の味方といえども即死だ。
悪党は立ち上がり、今にも落ちそうな正義の味方の側まで近づいてきた。
「分かるかな?・・・これが世の中の常なのだ。思いどおりにはならんのだよ、人生は」
正義の味方は悪党を睨みつけ言った。
「・・・・私をここから突き落とせばお前の勝利だな」
「いいや、そんな事はしないさ」
そう言いながら悪党は正義の味方に手を差し伸べた。
正義の味方は不信そうな顔をしたが、その手を握った。
その手を握った瞬間、正義の味方は全てを理解した。
「兄さん!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
双子の兄と弟は屋上の手すりに腰掛けながら、町の夜景を見ていた。
強い風が、マスクを外した二人の顔を撫でていた。
弟は兄に聞いた。
「どうして僕を助けたのですか?」
「正義の味方が居なければ、悪人の存在意義が無いからな」 と兄は答え、ニヤリと笑った。
「・・・・何を言っているのかさっぱり分かりませんよ。兄さんは狂っています!」
「そうかもな」
その時銃声が鳴り響き、兄の胸を銃弾が貫いた。
兄は高層ビルの屋上から、200メートル下へと吸い込まれるように落ちていった。
「兄さん!!」
最期に二人の目があった。
兄は弟を見て微笑み、そして町の夜景の中へと吸い込まれていった。
正義の味方が後ろを振り返ると、警官がライフルを構え立っていた。
ライフルの銃身からは煙が立ち上っていた。
「なぜ撃った?!」
「いや、何故ってアイツが屋上からあなたを突き落とそうとしていたので・・・・」
正義の味方はカッとなり警官を睨みつけたが、思い直し言った。
「いや・・・・ありがとう。おかげで助かった」
翌日の朝、町では祝賀会が開かれた。
悪党のボスが死に、町に平和が戻ってきたからだ。
正義の味方が壇上に立ち、祝賀の演説をする事となった。
正義の味方は壇上に立ち、聴衆を見渡した。 大人も子供も老人もみんなとても幸せな顔をしていた。 マイクを握り正義の味方は語り始めた。
「悪党のボスは・・・・・」
しばらく言葉に詰まったが、昨夜の兄の微笑みを思い出し、演説を続けた。
「悪党のボスは実は、私の双子の兄でした。 何故兄が悪の道へと進んだのか私には分かりません。
・・・・しかしこれだけは言えます」
壇上の下を見ると子供達も真剣な表情をしながら聞いていた。
正義の味方は言葉を続けた。
「・・・・・・兄は本物の悪人でした。 兄は良心のカケラも持ち合わせていませんでした。
あれほどの極悪人を私は知りません。兄はいたずらに、この町を犯罪の巣窟にし、住民を恐怖に陥れたのです。
一時期、兄は子供達に人気でしたが、私は理解に苦しみます。 何故なら彼は悪人だったからです。
騙されてはいけません、兄は悪が蔓延る事を無上の喜びとしていたのですから。
・・・しかし、悪党は滅びこの町には平和が戻ってきたのです!!それをみんなで喜び祝福しようではありませんか!」
聴衆から歓声がわき上がった。
何故か正義の味方は、聴衆に背を向け空を見上げた。
そして正義の味方はそのまましばらく空を見上げていた。
誰にも彼の表情は見えなかった。
――――完
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