オオカミになった羊(後編29)by クレーン謙
──羊歴1420年、第八の月、酷暑が続き戦闘の激しさが増す中、オオカミ族がアヌビス族とキメラ族の両族と軍事同盟を結びました。 高い戦闘力を誇るアヌビス軍を率いるのは、眼光鋭く金色のたてがみを蓄えたセ...
──羊歴1420年、第八の月、酷暑が続き戦闘の激しさが増す中、オオカミ族がアヌビス族とキメラ族の両族と軍事同盟を結びました。 高い戦闘力を誇るアヌビス軍を率いるのは、眼光鋭く金色のたてがみを蓄えたセ...
自警団が寺院に押し入ってから、それからはアリエスは聖堂の中でホワイトセージの香を焚くのを怠りませんでした──このようにしておけば、強い香りでアセナの匂いを消せるからです。 寺院の周囲に住む羊たちは「...
──どうやら私は、しばらくうたた寝をしていたようだ。 ドアがノックされたのに気づき、私は座っていた椅子から身を起こし、ドアの向こう側に声をかけた。 「どうぞ、お入りください」 寝ている間...
──ここは羊村通商大臣ヘルメスの豪奢な屋敷。 ヘルメスは交易事業で巨額の富を得ていたので、羊村の中でも一際目立つ豪華な屋敷を所有しています。 メリナ王国の職人に作らせた暖炉が据えられた執務室で、ヘ...
ーー羊歴1420年、第四の月に始まった羊村とオオカミ族の戦は、同年第六の月に休戦協定が結ばれました。その直後に、ソールとアセナは、メリナ王国へと逃げ、大巫女アリエスの元で潜んでいたのですが、その間に再...
寺院の中へと乗り込んできた羊たちは、オオカミが隠れていないか捜索を始めました。 猟銃を手に、羊たちが無遠慮にあちこちの部屋を開けるのに業を煮やしたアリエスは、辛抱ができなくなりました。 ...
大巫女アリエスは、ソールとアセナが戻ってきたのに心から安堵しますーーアリエスはソールを抱きしめその無事を喜びました。 アセナは傷だらけで、その上、尻尾も無くなっていましたが、きっと相手をあの《オオカ...
《オオカミ殺しの剣》を握りしめ、アセナは目をつぶりフェンリルの居場所を探り当てようとしますーー頭上には月が輝いており、月光に熱がある筈もないのに、アセナは月光がジリジリと体に照りつけるのを感じていまし...
その夜は四年に一度の狼月ーーーアセナが夜空を見上げますと、地上に住まう生きとし生けるものを見守るかのようにして、大きな月が静かに輝いています。 狼月の夜は、オオカミ族にとって神聖な夜。月の精が地上に...
国王からあてがわれたアリエスの寺院には、参拝に訪れる羊はあまり居ませんーー羊村と同じで、メリナ王国でも羊達の信心が低下していますし、時折やってくる羊といえば、聖堂の小部屋に祀られたオオカミの剥製を見物...