ワインシュタイン博士の長い一日<2>

空飛ぶペンギン

ワインシュタイン博士はかつては、とても有名な学者だった。
ワインシュタイン博士がその昔、「独特・非一般相対性理論」という学説を世に発表した時には大いに話題になった。
この学説によれば、アインシュタインの「一般相対性理論」は不十分で未完成である、という。
「独特・非一般相対性理論」はアインシュタインですら解明する事ができなかった宇宙の謎を解き明かす事ができると言われていた。

しかしワインシュタインの学説はあまりにも難解で、大概の人には何を言っているのか理解ができなかった。
そもそも「ワインシュタイン」という名前からして、怪しさが付きまとい、「独特・非一般相対性理論」というネーミングの学説もやがてはまゆつば物として扱われる事になった。

ワインシュタインはやがては世間の笑いのネタになってしまい、そしてワインシュタインは逃げるようにして町を離れ山奥の小屋に家族と移り住んだ。
人々から忘れ去られ、訪れる人が誰もいなくなり、妻と娘は山奥の暮らしに嫌気がさして、そしてワインシュタインの元を離れていった。
若い頃から飼っているオウムだけが博士の家に残った。
博士は一人さびしく研究は続けたが、酒に溺れるようになってしまったのだ。

ワインシュタイン博士は少し背筋を正し、オウムに尋ねた。
「大変な状況だという事はよく分かった。・・・ところで『約束』とはいったい何の事なんだね? ワシは誰とも約束なんか交わした事はないのだが」

オウムはチラと窓の外を向き、首を振り返しながらワインシュタインに言った。
「勿論、これはあなたと交わした約束ではないよ。この約束は、あなたがた人類と我々動物たちとの間で交わされた約束なのだ。・・・・あまり時間がないのだが、説明をしよう」

そしてオウムは驚くべき事を語り始めた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

むかしむかし、そして更にその大昔。
人々とあらるゆる動物たちは、仲良く平和に暮らしていた。
動物たちは皆平等に、自分たちの特技を活かし協力しながら生きていた。

夢の中で未来の事が読めるバクがある時、遠い未来の夢を見た。
その夢の中で、バクは地球に衝突する巨大隕石を見た。
バクは冷や汗をかきながら起きあがり、夢の事を仲間に話した。

それは大変な事だ、という事になり、緊急会合が開催される事になった。
ありとあらゆる動物の代表が集まった。
勿論、人間の代表もその場にいた。
人間の代表に選ばれたのは、まだ小さな子供だった。

緊急会合の議長のオウムは皆に告げた。
「みなさん、集まっていただきありがとうございます。バクが見た夢は、遠い未来の事ではありますが、この夢によれば我々動物はこの隕石衝突で滅びてしまいます。
遥か未来の事とはいえ、やはり放っておくわけにはいかず、皆に集まっていただきました。
・・・・未来に必ず起こる未曾有の大惨事をいかにして防ぐ事ができるのか?
ここで皆と話し合いをしたいと思っております」

動物たちはザワザワとして、お互いの顔を見渡した。
ライオンが立ち上がって言った。
「・・・バクが見た夢では、その大惨事は回避する事ができたのかね?」

「大惨事は回避できないかもしれません・・・。しかし夢の最後に人間が現れました。
遠い未来の危機を回避できるか否かは、ここに居る人間がそのカギを握っているようです」
そう言ってバクは人間の子供を指差した。

人間の子供は驚いてバクを見た。
「え、ボクが?」
「そう。どうやら君の遥か遠い子孫がこの地球を救う事になるかもしれない、と私の夢は告げている」

ライオンは人間の子供をジロジロと見て言った。
「人間がどうやって地球を救うんだね?人間は頭もよくないし、勇気もあまりない。・・・特技といえば火を起こす事ぐらいだ」

人間の子供は顔を赤くしてうつむいた。
「そうだよ。僕は頭もよくないし、勇気だって他の動物に比べて、ぜんぜんない。そんな人間が地球を救うことなんかできないよ」

会合に集まった動物たちは不安な表情をしながら頷き、再びザワザワと騒ぎ始めた。
「静粛に、静粛に!」
議長のオウムは木槌を叩きながら告げた。

「確かに、このままでは人間には地球を救う事はできないだろう。・・・・そこで、どうだろうか? 我々が持っている能力のひとつひとつを人間に捧げるというのは?
確かに、人間には火を起こす事しかできません。
しかし、我々が協力しあえば、必ずや人間はその特技を使い我々を救う事になるでしょう!
・・・・異論がなければ、皆さん、自分の持てる能力を人間に捧げていただきたいのです」

会場は静まり返ったが、しばらくしてペンギンが立ち上がり言った。
「私は誰よりもうまく空を飛べます。私はこの能力を人間に捧げます」
「そうすると、君はもう空を飛べないのだが、いいのかね?」
「しかたがありません。今すぐにではありませんけどね、人間はそのうち私のように空が飛べるようになるでしょう。
そして、いずれは隕石が迫り来る、あの宇宙にまで行く事ができます!」

――――続く

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