ワニ〜フロリダに出現したそのワニはアリゲーターなのかクロコダイルなのか

「妄想旅ラジオ」ポッドキャスター ぐっちーが綴るもう1つのストーリー「妄想生き物紀行 第24回 ワニ〜フロリダに出現したそのワニはアリゲーターなのかクロコダイルなのか」

ワニは爬虫綱ワニ目に属する水中生活に適した動物の総称である。ワニ目はアリゲーター科、クロコダイル科、ガビアル科の3科に今のところ分類される。このうちガビアル科にはガビアル属インドガビアルの1種が知られており、1科1属1種の珍しい生物である。ただしガビアル科はクロコダイル科に含めるという意見もあり、今後の研究が待たれる。

日本に住む私はワニの分類を今まで気にしたことがなかった。アリゲーターだろうがクロコダイルだろうが、ワニはワニだと思っていた。先日見た動画で釣りをしている男性が湖から出てきたワニに追いかけられる様子が映し出されていた。男性は池の中から這い上がってくるワニから逃げる途中転んでしまうのだが、起き上がった先にはワニが男性をにらんでいる様子が映っている。ワニは男性のことを獲物だと思っているのか、ただの威嚇なのかは不明だ。その後、男性は何を思ったかワニを威嚇するように距離を詰めていったのである。最終的にワニは湖に帰って行ってしまうのだが、私はこの男性の行動が理解できない。

私にはこの動画に映るワニはアリゲーターだったのか、クロコダイルだったのかは判断付かなかった。アリゲーターとクロコダイルでは多少ではあるが見た目と性格が違う。アリゲーターは口を閉じた時、下顎の歯が外から見えず比較的穏やかな性格である。一方クロコダイルは口を閉じても下顎の歯が外から見えて、いかにも獰猛そうに見えるし実際比較的獰猛である。ただし、アリゲーターが大人しくて、クロコダイルが獰猛ではない。両方獰猛であるが、比較的大人しいのがアリゲーターである。

刑事ドラマで犯人の取り調べをする際に、「お前がやったんだろう!」と語気を荒げて尋問するのがクロコダイルだとすると、「お袋さんが泣いているぞ」と言って落としにかかるのがアリゲーターである。彼らにとっては犯人を自白させるためのテクニックであるが、無実の罪で拘束されている被疑者にとっては、犯人に仕立て上げられると思うと、どちらもただただ恐ろしい存在である。

さて、この動画について調べてみるとハフポスト(日本版)というサイトに記事が掲載されていることがわかった。記事を読んでいると場所はアメリカフロリダ州エバーグレーズとあった。エバーグレーズはフロリダ半島の最南端に位置し、国立公園がある自然豊かな場所である。そこで釣りをしていたトミー・リーさんが投稿したYouTube動画が話題になっているという記事である。私はこのワニがアリゲーターなのかクロコダイルなのか知りたいと思い検索したのだが、記事にはただ「ワニ」としか書かれていなかった。アメリカの話題だったらアリゲーターかクロコダイルか書いてあると思ったのだが甘かった。多くの日本人が私と同じくアリゲーターとクロコダイルを区別していないらしく、その事を忖度した翻訳者がワニと訳したに違いない。他に手がかりはないかと読み進めると記事の最後に「この記事はハフポストUS版を翻訳・編集しました。」と書かれていたのでUS版を検索することにしたのである。

US版ハフポストのトップページに向かったが、少し前の記事であるらしく既にその姿を消していた。各記事はPolitics、Entertainment、Life、Shopping、Communitiesなどのカテゴリに分類されていたが、このワニに遭遇した若者の記事がいったいどのカテゴリに分類されるのか、皆目見当が付かなかった。試しにLifeカテゴリの記事を数ページほど辿ったが、それらしいページは出てこなかった。サイト内検索の欄がなかったため、Googleの検索機能で「alligator site:huffpost.com」および「crocodile site:huffpost.com」と入力し記事を検索したところようやくたどり着いた。

アメリカに生息するワニはほとんどがアメリカアリゲーター(Alligator mississippiensis)だが、エバーグレーズ国立公園内にはアメリカワニ(Crocodylus acutus)も生息し、アリゲーターとクロコダイルが同じ場所に生息する世界では非常に珍しい場所なのである。余談だが、アメリカワニを日本名にする時、なぜアメリカクロコダイルにしなかったのか謎である。ここでも日本人のワニに対する認識のいい加減さが露呈している。

ところで、最近このフロリダにアフリカ出身のナイルワニ(Crocodylus niloticus)が観察されている。誰かが持ち込んだと考えられているが、DNA調査で南アフリカ産の可能性が高いことがわかっている。とは言えフロリダはワニの楽園と言っても過言ではない。先程の若者が遭遇したワニはアリゲーターの可能性も、クロコダイルの可能性もあるのだ。

さて、ハフポストUS版記事を確認するとそこにはアリゲーターと記載されていた。若者が遭遇したワニはアリゲーターだったことがようやく判明したのだ。もし今回のワニがクロコダイルだったら更に獰猛なはずで、この若者の命がなかったかも知れない。アメリカアリゲーターは全長約4mに成長し、最大5.8mの記録もある。今回のアリゲーターは全長約3.3mと記されており、それほど大きな個体ではなかったと思われる。

記事の結びにはフロリダを含む南部地域では自宅の庭のプールにアリゲーターが潜んでいる可能性があるので確認してから利用するよう注意が呼びかけていた。しかし、日本ではこのような心配がないと安心してはいけない。どこからか逃げ出したヘビが寝ている隙に体に巻き付いてくることもあり得るからだ。生き物好きの人が生き物を飼っているはずで、その生き物が逃げ出した場合、その生き物には不幸な最期が待っている可能性が高い。生き物を飼う時は天寿を全うするまで飼う覚悟と、逃げ出さないように厳重な管理を行う必要があり、ルールに則った飼育を行わなければならない。

参考資料:「釣り人、水中の悪夢から危機一髪、逃げる!」(Huffpost US版: 記事は英語、タイトルは編者訳。下記「編集後記」に記事抄訳あり)

(by ぐっちー)

<編集後記>

※このエッセイ「妄想生き物紀行」は、ポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」の第24回「ワニ と関連した内容です。ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。妄想旅ラジオは、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組です。リンク先に聴き方も詳しく載っていますので、ぜひ合わせてお楽しみ下さい。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第24回「ワニ〜フロリダに出現したそのワニはアリゲーターなのかクロコダイルなのか」いかがでしたでしょうか。

今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

日本語の「ワニ」概念の適当さに翻弄され、予定した話題にたどり着けなかったそうですが、何を予定していたのか気になりますね。それはさておき、みなさまも参考資料の「ハフポスト」ワニ動画、ぜひ見てみてください。妄想旅ラジオ第24回放送「ワニ」では、ゲストのたけちよさんが「(観光アクティビティ的)ワニ釣り」についてお話されていましたが、全然違う「ワニ釣り」の衝撃映像です。

面白かったので、内容は英語なので読むのがめんどくさいという方のために、記事の抄訳と見どころをこちらに。なにせ訳した人間が私なので間違っていたらすみません、というかご指摘いただけると嬉しいです。

釣り人、水中の悪夢から危機一髪、逃げる!(Huffpost US版記事の抄訳&見どころ)

まず、(ぐっちーさんのエッセイでも触れられている通り)舞台はフロリダ州エバーグレーズという広大な湿地。
見どころ1:面積約2万平方キロ(東京ドーム約40万個ぶん。毎度思うがこの例え、あまりわかりやすくない)で、1万種以上の生物の棲む自然豊かなエリア。

そのエバーグレイズでターポンを釣っていたトミー・リーさん(22歳・男性)がアリゲーターに遭遇した。
見どころ2:ターポンは和名「タイセイヨウイセゴイ」、最大体長250センチに及ぶ大きな魚で、毒はないけれど美味しくないとのこと。スポーツフィッシングを好む人には人気があるらしいのでトミー・リーさんも愛好者か?
見どころ3:記事中に登場したため調べて知ったが、”alligetor”(アリゲーター) を略した”gator”(ゲーター)という言い方があるらしい。略語ができるくらいなので身近な生き物のようです。

トミー・リーは逃げようとして転んでしまったが、幸運にもアリゲーターは水中に戻って行った。だが、彼は釣りをそこでやめにした。「不本意だけれど、帰ってきた」(本人談)
見どころ4:Huffpostの記事では、トミー・リー氏がアリゲーターとの距離を詰めた件はスルーしている。真似しちゃダメだから? 噛まれなくてよかったね。

トミー・リーはアリゲーターは11フィート(約330センチ)くらいだったと言う。今はアリゲーターの繁殖期。つまりフロリダでアリゲーターはいつもより活動的で、遭遇する可能性も高いということだ。
見どころ5:ぐっちーさんの言う通り、3メートル超ながらアメリカアリゲーターとしてこれはまだ小型な方!

「フロリダ・フィシュアンドワイルドライフ」は、フロリダの67の郡すべてにアリゲーターがいるとして警戒を促している。専門家は、アリゲーターは水のあるところならどこにでもいるという。「まずはあらゆる水場に注意すべきです。バスタブ、プール、裏庭の池や、子供が遊ぶ水たまりなどにも。今の時期、アリゲーターは逃げ回っています。どこにでも隠れられる小さな個体は特に。大きなオスのアリゲーターが、メスを全部自分のものにしようと、小さなアリゲーターを追い出すので」
見どころ6:フロリダフィッシュアンドワイルドライフ、直訳すると「フロリダ魚と野生生物」そんなのあるんだ、面白い、と調べたところ、フロリダの野生生物の研究、自然環境の保護活動、自然の中での狩猟・レジャーを安全で持続可能にするためのマネジメント活動などを行う団体のようです。
見どころ7:バスタブって……

以上です。改めて、ハフポストUSの元記事はこちら。トミー・リーさんがyoutubeに投稿したアリゲーターとの遭遇動画だけでなく、繁殖期のアリゲーター同士の戦い動画もあります。

Twiterでぐっちーさんと話そう企画

さて今回もアリゲーターについて、クロコダイルについて、ガビアルについて、つまり日本式にいい加減に言えばワニについて、その他何でもTwitterでお話したいと思います。参加方法はTwitterに書き込むだけ、なので初めての方も、ラジオお聴きのみなさまも、エッセイを読んでの感想、ぐっちーさんへの質問やツッコミなど、ぜひお気軽に。お待ちしています!

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