ヤンバルクイナ 〜飛ばなくてもいいから飛ばない。あなたの周りにそんなヤンバルクイナのような男はいませんか?

「妄想旅ラジオ」ポッドキャスター ぐっちーが綴るもう1つのストーリー「妄想生き物紀行 第3回 〜飛ばなくてもいいから飛ばない。あなたの周りにそんなヤンバルクイナのような男はいませんか?」

 ヤンバルクイナの分類はツル目クイナ科ヤンバルクイナ属ヤンバルクイナ。沖縄本島の北部に生息する飛べない鳥である。いや、飛ばない鳥あるいは飛ぶ必要のない鳥である。

 幼稚園児に鳥の特徴を聞くと、必ず飛ぶことが挙がってくるはずである。鳥なのに飛ばないと言うことは、付き合っているのに手も握らない彼氏、共働きなのに家事をしない夫、受験生なのに勉強しない息子くらい理不尽なことである。

 飛ばない鳥はヤンバルクイナの他にもダチョウ、エミュー、ペンギンなど様々な種類がいる。これらの鳥類は大きく分けて3種類に分類できる。

 まず、進化の初期から飛ぶことよりも走ることを優先させたグループ。このグループにはダチョウやエミューが入る。ダチョウはアフリカ大陸、エミューはオーストラリア大陸、そして今は絶滅してしまったが、ニュージーランドにはモアという鳥がいた。これらは草原を走る方が空を飛ぶよりも効率が良かったのかもしれない。空を飛ぶことは非常にエネルギーを使う行為であるので、飛ばなくても生き残れるならその方が効率的である。そもそも、鳥類は恐竜の生き残りが進化したと考えられているので、もしかしたら飛ばなくなるのは必然かもしれない。

 次のグループは翼を飛ぶこと以外に使うことにしたグループで、代表的な例はペンギンである。ペンギンは空ではなく水中を飛ぶ。北海道の旭川にある旭山動物園では水槽の中に透明なトンネルを設けて、その中からペンギンが水中を飛ぶ様子が観察できる。東京では池袋のサンシャイン水族館、山口県下関市には日本最大級のペンギン村、海響館がある。普段人間が目にすることのできるペンギンは陸上をよちよち歩く姿だが、水中を飛ぶ姿はまさにハンターのようにエサの魚を捕らえる。特に冬の旭山動物園は雪の上をよちよち歩く姿と水中を飛ぶ姿の両方が楽しめるのでおすすめだ。

 そして、最後のグループはひとつ目と似ているが、後から飛ぶことをやめたグループである。ヤンバルクイナはこのグループに属し、近縁のクイナ科には渡りをする種もあり、骨格的にも飛行能力を示す痕跡を多く残す。ヤンバルクイナの祖先は沖縄の島々を飛んで渡り歩いていたはずで、その中で沖縄本島にたどり着いたあるグループは飛ばなくてもエサがたくさんあるし、天敵となる外敵生物もいないしと、飛ぶ必要がないことに気が付き始めるのである。

 あたかも、結婚前は付き合って3ヶ月間手も握らなかったり、夜景を見に行った後高層ビルでディナーを食べたり、記念日にはサプライズがあったりと、紳士的でマメだった男が結婚したら急に出不精になるようなものである。そして、共働きなのに家事もせず、日曜日は一日中パジャマで過ごし、子供ができてもほったらかし。教育は任せたと言って受験勉強をしない息子に何も注意しないのである。このようにして、飛ばないグループの飛ばなくてもいい生き方は親から子へと受け継がれ、益々飛ばなくなり、ついには飛べなくなるのである。

 さて、近年ヤンバルクイナはその生息数を減少させている。原因は外来種マングースによる捕食である。マングースは1910年、人間の手によってバングラデシュから連れて来られた。当時大量に発生していたネズミの駆除とハブの駆除のためである。那覇市周辺に十数頭放され、ネズミを一網打尽にしてくれることを期待されていたが、結果として沖縄の固有種であるヤンバルクイナを食べてしまったのである。マングースにしてみれば小さくてすばしっこいネズミを食べるより、捕まえやすいヤンバルクイナを食べる方が効率的である。

 すなわち、勉強もせず適当に就職したものの、実家暮らしでいい年になっても結婚しない息子に見合いを勧め、少しは自立するかと思いきや、嫁の金遣いの荒さに家計が破綻しそうな状態である。その当時は良かれと思ってやったことが、後々大きな問題を引き起こす典型的な事例である。

 このように、人間の手で外部から生物を持ち込み、そこで繁殖してしまっている生物種のことを外来種と言う。外来種は元々生息していた在来種を駆逐して生態系を攪乱してしまう。外来種により在来種の絶滅が危惧される状況を作り出したのは人間であるので、在来種の保全もまた人間の責任において行わなければならない。生物種が絶滅してしまうと二度と取り戻すことはできないばかりか、滅び行く生物種の中には人間にとって食料や医療などで有用な価値を持つ種がいるかもしれないので、絶滅させてしまってはいけないと言うのが一般的な外来種問題の論点である。

 しかし、果たして本当にそうなのだろうか。

 すべての生物はこれまでも、これからも次々と絶滅する。人間だっていずれ絶滅する。何十億年も時をかけて育まれた生態系を人間が壊していいものかと言われれば罪悪感はあるものの、ちょっと早まっただけと言えなくもない。確かに借金まみれの息子夫婦に対し、近く破産してしまうのは目に見えていても、見合いを勧めたのは自分だとして資金援助をしてしまうだろう。

 また、食料や医療などで有用な価値を持つ種がいるかもしれないので絶滅させてはいけないと言うが、人間は害虫駆除を積極的に行い特定の種を徹底的に絶滅させようとしている。実際、天然痘ウイルスは人間の手で絶滅に成功した。人間の生命や重要な作物を守ることができても、特定種の数を減らせば生態系に与える影響が大きいはずだ。

 つまり、これらの問題はすべて人間本位である。「地球を守ろう」というスローガンはすなわち「人間にとっての地球を守ろう」である。地球のために良い事をやっているように思わせる美辞麗句はやめにして、人類のため、素直に「できの悪い息子ほど可愛い」と言うべきだ。

<編集後記>
※このエッセイ「妄想生き物紀行」は、ポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」の第3回「ヤンバルクイナ」 と関連した内容です。ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。妄想旅ラジオは、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組です。リンク先に聴き方も詳しく載っていますので、ぜひ合わせてお楽しみ下さい。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第3回「ヤンバルクイナ 〜飛ばなくてもいいから飛ばない。あなたの周りにそんなヤンバルクイナのような男はいませんか?」いかがでしたでしょうか。

今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

ヤンバルクイナのような絶滅寸前の(なおかつ惜しまれる)生き物は「できの悪い息子」であるという驚きの見解! 「地球にやさしい」なんておためごかしにはウンザリだという方は多いでしょうが、これにはビックリですね。というわけで、

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