クリオネ〜流氷の天使と裸の王様

「妄想旅ラジオ」ポッドキャスター ぐっちーが綴るもう1つのストーリー「妄想生き物紀行 第12回 クリオネ〜流氷の天使と裸の王様」

流氷の天使「クリオネ」。

このキャッチフレーズは寒く冷たいオホーツク海に浮かぶ流氷の下で、人知れず羽ばたくように泳ぐクリオネの愛らしい姿を的確に表現している。流氷の下は太陽の光が遮られて暗く、水温は-1.7℃まで下がる。そのような過酷な環境下で翼足と呼ばれる2枚の羽のような器官で水中を優雅に泳ぐ姿は天使の名にふさわしい。流氷という厳しい環境と、天使という神々しさのギャップを内包させているにもかかわらず、どちらの要素も引き立たせる秀逸なキャッチフレーズである。まさに、言い得て妙である。

秀逸なキャッチフレーズというものは、そう簡単には生まれない。昭和の時代、アイドルがデビューするときにはキャッチフレーズが添えられていた。例えば石川秀美さんは「さわやか天使」、桜田淳子さんは「そよ風の天使」といった具合だ。しかし、これらの一覧を見て、その後の活躍を的確に表現したキャッチフレーズは見当たらなかった。(個人の感想です)

一方、企業広告に使われるキャッチフレーズ、あるいはキャッチコピーには秀逸なものも多い。中でも私が特に秀逸だと感じたのが、代々木ゼミナールの「志望校が母校になる」である。予備校なので大学受験を念頭に、希望する大学に入学できるようサポートするのが業務であるが、受験生に対して入学だけではなく、卒業した後のイメージまで抱かせる素晴らしいキャッチコピーだと感心した。(個人の感想です)

流氷の天使と呼ばれるクリオネだが、その生態もまたギャップを内包している。クリオネは二枚貝の仲間で、殻が退化している。そして、ミジンウキマイマイという同じ二枚貝の仲間を捕食するのだが、捕食する時はバッカルコーンと呼ばれる頭部が六本の触手に分裂し、ミジンウキマイマイを捕らえるのである。まるで、取引先との打合せが和やかな雰囲気で終了した後、「ちょっと失礼します」と言って、相手の方が部下からの電話を廊下に出て受けるやいなや、急に怒鳴りつけるような口調に変わった時くらい天使が悪魔に変わる瞬間である。本来この様な方とはお付き合いしない方が賢明であるが、相手がクリオネであれば見ているだけで無害である。

ところで、我々がメディアなどでよく目にするクリオネは、クリオネ・リマキナという種類であった。なぜ過去形かというと実は、2017年に新種が発見されたのを機に分類が再整理されたからである。2017年より前ではクリオネは、クリオネ・リマキナとクリオネ・アンタークティカの2種類と考えられていた。ところが、約100年ぶりに新種が発見され、同時に今まで同種と考えられてきた、北太平洋と北大西洋に分布するクリオネが別種類と判明した。つまり、今まで2種類だと思っていたクリオネが4種類になったのである。実は日本のメディアに登場しているクリオネは名前が変わり、クリオネ・エレガンティシマに、そして新種のクリオネはクリオネ・オホーテンシスと命名された。

改めて以下に新しいクリオネの分類を示す。

学名 学名(日本語読み) 標準和名 分布
Clione limacina クリオネ・リマキナ ダイオウハダカカメガイ 北大西洋
Clione elegantissima クリオネ・エレガンティシマ ハダカカメガイ 北太平洋
Clione antarctica クリオネ・アンタークティカ ナンキョクハダカカメガイ 南極
Clione okhotensis クリオネ・オホーテンシス ダルマハダカカメガイ オホーツク海

北太平洋と北大西洋のクリオネが別種類だったと説明したが、クリオネ・リマキナが最初に論文に記載されたのが北大西洋産だったことから、クリオネ・リマキナはそのままである。しかし、日本国内の呼び方である標準和名はダイオウハダカカメガイに名前が変更された。

もうお気づきだろう。クリオネ界にも大王が出現したのである。しかも裸。この裸の王様の出現は日本国内だけの呼び名であるものの、生物界に新たな波紋を広げる予感がする。

そして、この予感が的中する。実は更に新種が発見されたらしいのである。2016年8月に富山湾の水深700m地点で採集されたクリオネが新種であることが判明した。この原稿執筆中では新種を記載した論文が発表されていないので詳細については不明だが、遺伝子分析をした結果、新種の可能性が高いとのこと。全長は0.5~5㎜ほどで他のクリオネに比べて小型である。

さて、この新種のクリオネにあなたなら何と命名するだろうか。

<編集後記>

※このエッセイ「妄想生き物紀行」は、ポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」の第12回「クリオネ と関連した内容です。ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。妄想旅ラジオは、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組です。リンク先に聴き方も詳しく載っていますので、ぜひ合わせてお楽しみ下さい。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第12回「クリオネ〜流氷の天使と裸の王様いかがでしたでしょうか。

今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

クリオネに新種! 天使の世界に大王が君臨! というか、前からいた天使が大王に昇格?

クリオネの世界が今そんな劇的変動を遂げつつあるとは全然知りませんでした。さすがぐっちーさん。富山湾で発見されたクリオネの写真、みなさまもぜひ「クリオネ 新種」などで検索してみてください。なんだか、よくお弁当についてくる、金魚の形のお醤油入れに似てるんです……似てませんか? 私なら「ハダカショウユキンギョカメガイ」にしますね。

あと似てるといえば、クリオネで検索すると間違って出てくる「クオリネ」という商品。

オリネなんです、クリオネじゃないんです。耳栓みたいなものだけれど完全な遮音が目的ではなく、耳栓に比べるとより小さく目立たずに装着でき、周囲の音をややマイルドにするという、聴覚が敏感な人向けの製品らしいです。でも……似てませんかクリオネに?

クリオネによく似た謎の道具

Twitterでぐっちーさんと話そう企画

そんな話はさておき、今回もやります、Twitterで話そう企画。クリオネについて、昇格した大王について、裸の王様について、クリオネそっくりさん問題について、新種クリオネの命名についてなどなど、ぐっちーさんとあれこれお話しようという企画です。

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