ハシビロコウ〜ハシビロコウが動かないだけで人気なのは納得いかないけど面白い生き物ですよね

ハシビロコウは、ペリカン目ハシビロコウ科ハシビロコウ属に分類されるペリカンの仲間である。ハシビロコウ科にはハシビロコウしか分類されておらず、1科1属1種の珍しい生き物である。以前は形態、生態などからコウノトリ目に分類されていたが、骨格などからペリカン目に分類されるようになり、最近ではDNA分析でもペリカンに近いことが分かってきた。

ハシビロコウは主に中央アフリカの熱帯部に生息しており、ルワンダ、タンザニア西部、ザンビア北部、ウガンダなどの淡水の沼で生活する。1997年には15,000羽の生息が確認されていたが、近年では5,000羽から8,000羽にその生息数を急激に減らしている。現在世界では動物園などで40羽から50羽が飼育されているが、そのうち日本動物園水族館協会加盟の5施設で合計10羽が飼育されており、世界的に見ると日本はハシビロコウ飼育大国である。

ハシビロコウは夜行性で昼間はほとんど動かない。動物園では動かない鳥として人気なのだが、動いただけで歓声が上がる珍しい鳥である。確かに存在自体が珍しい鳥なのだからそこにいるだけで十分展示価値があるのだが、動くだけで話題性がある存在は他に類を見ない。私のような一般人が勤労、納税の義務を果たしていても注目されることはないが、一度も国会に出席せず給料をもらっていた議員は注目の的であった。若い頃ヤンチャだった人が普通の仕事に就いただけで注目されるのは納得がいかない。若い頃から真面目に生きてきた人々にこそ注目するべきである。

さて、動物園で希少な動物を飼育する目的としては「種の保存」、「教育・環境教育」、「調査・研究」、「レクリエーション」とい う4つあるとされている。一般人向けには「教育・環境教育」と「レクリエーション」が提供されており、ハシビロコウの動く動かないはレクリエーションとして消費されている。そこへなぜそのような行動をするのか考えたとき、生息環境や個体数の減少などから環境教育が施される。

一方、「種の保存」、「調査・研究」については一般人に対して直接提供されることは少ないが、繁殖の試みやその条件に関する研究も動物園にとって重要な役割である。これまでハシビロコウの繁殖事例はベルギーとアメリカ合衆国の2例しかないが、近年日本ではハシビロコウの繁殖を目指して試行錯誤が繰り広げられている。

兵庫県神戸市にある神戸どうぶつ王国と高知県香南市にある県立のいち動物公園ではハシビロコウの繁殖に取り組んでいる。このうち神戸どうぶつ王国ではアフリカの気候を再現して雨季と乾季を演出するスプリンクラーを設置したハシビロコウ専用の施設をクラウドファンディングで建設した。ハシビロコウは雨季から乾季にかけて繁殖期をむかえるため毎日行動を観察して繁殖行動と思われる兆候を示したら雨をやめて池の水を少なくするなど工夫している。しかしながら、今のところ何が繁殖行動のきっかけになるかつかめていないため試行錯誤が続いている。

静岡県の伊豆シャボテン公園では推定年齢50歳以上のビルというハシビロコウが飼育されていたが、残念ながら2020年に老衰のため死亡した。ビルは1971 年にスーダンのハルツーム動物園より来日し、10年間ほど進化生物学研究所で飼育された後、1981年から伊豆シャボテン公園で飼育されていた。ビルはオスだと思われていたが、死後に解剖した結果メスだったことが判明した。2003年に札幌市の円山動物園で誕生したホッキョクグマのツヨシは繁殖のために釧路市動物園に異動を命じられたが、繁殖行動を示さないため調べたところメスだったことが判明した。外見から判断できない場合はこのようなことがたまに起こるらしい。

ビルは生涯「ビル君」として扱われ、死後初めてその真実を明かした。しかしこれはすべて他者がビルをオスとして扱ってきただけで、本人(本鳥)は全くあずかり知らぬことである。単独で飼育されている限りにおいてはオスだろうがメスだろうが扱いに違いはないが、私を含め「ビル君」として接してきた周りにとって、急に「ビルちゃん」として接しなければならない事態に感情の整理がつかないでいるのではないだろうか。

その感情は本当はメスだったビルをオスとして扱い、不当な扱いを続けてきたという罪悪感なのだろうか。あるいはビルのアイデンティティを性別でしか評価できていなかったことについての絶望感なのだろうか。

いずれにしてもビルのことをもっと知るべきであったし、ハシビロコウのことをもっと知りたいと思う。つまり動物園における4つの目的を支援するため公的施設のために納税し、動物園を利用し、そしてその活動について多くの人に知ってもらう一助になるようこの場を借りて宣伝していきたい。

(by ぐっちー)

※このエッセイ「妄想生き物紀行」第72回はポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」第72回「ハシビロコウ」と関連した内容です。ポッドキャストもお聴きになると一層お楽しみいただけますのでぜひどうぞ!「妄想旅ラジオ」は、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組(ポッドキャスト)です。インターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。詳しい聴き方などは「妄想旅ラジオ」のブログを。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第72回「ハシビロコウ〜ハシビロコウが動かないだけで人気なのは納得いかないけど面白い生き物ですよね」いかがでしたでしょうか。

今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当・ホテル暴風雨オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

ハシビロコウの場合、動いても大騒ぎですが動かなくても「本当に動かない〜!」と歓声が上がっているので、サボり国会議員や真面目元ヤンキーとは次元が違うのではありますまいか。それにしても、伊豆シャボテン公園の長老ハシビロコウが世界最長寿だったことも亡くなったことも知っていましたが、死後性別誤認が判明したのは知りませんでした。とはいえ私の場合、「ビル君」じゃなく「ビル様」と呼んでいたのであまり混乱はないです。しかし動かない件といい性別誤認といい、他者への評価とか投影とかジェンダーバイアスとか、死してなお人間どもにいろいろ考えさせてくださるビル様ありがたい。

Twiterでぐっちーさんと話そう企画

さて今回も、ぐっちーさんとみなさんと、Twitterでお話したいと思います。ハシビロコウについて、更生した元ヤンキーについて、動物園の意義について、ビル様について、などなど、何でもお話しましょう。参加方法はTwitterに書き込むだけ、なので初めての方も、ラジオお聴きのみなさまも、質問してみたい人はもちろんただお話してみたい人も、エッセイを読んでの感想、ぐっちーさんへの質問やツッコミなど、ぜひお気軽に。お待ちしています。

斎藤雨梟のTwitterアカウント @ukyo_an  にて

↓こんな感じで↓ツイートしますので、よろしければみなさまもツイートへ返信してご参加ください。

ぐっちーさんとお話ししたもようは、来週こちらのサイトでまとめてお伝えします。Twitterでいただいた質問やコメントは記事内でご紹介させていただくことがあります。どうぞよろしくお願いいたします。では、Twitterでお会いしましょう!

ホテル暴風雨にはたくさんの連載があります。小説・エッセイ・詩・映画評など。ぜひ一度ご覧ください。<連載のご案内>