サメ〜サメ類の繁殖生態は脊椎動物の進化と同じだった?

サメ類は今から約4億年ほど前の古生代デボン紀に出現したといわれている。デボン紀といえばオウムガイやアンモナイトが繁栄し、陸上では種子植物の出現とシダ植物の繁栄が始まった頃である。また、動物が陸上に進出し始めた頃で、イクチオステガなどの両生類も出現している。つまりサメ類は妄想生き物紀行34 「リストロサウルス」で紹介したリストロサウルスよりも更に古い時代から生息する生き物であり、古生代から中生代にかけての大量絶滅を始め、幾度となく大量死を生き延びてきた精鋭なのである。

また、前々回の妄想生き物紀行40 「スティングレイ」でも触れたように、エイは今から約2億年ほど前の中生代ジュラ紀にサメの一部から進化したとされる。エイの出現より更に倍の時間、サメはサメとして生命をつないできたのである。その間、形状はほとんど変わっていないとされており、どれだけ洗練された生き物かということが分かるだろう。

サメの形状はほとんど変わっていないとされているが、繁殖生態は多岐にわたっている。私が子供の頃、サメは卵生と卵胎生の2種類いると習った記憶があるが、よくよく調べてみると卵生だとか卵胎生だとかの分類に当てはまらない、多種多様な繁殖生態を持っていることが明らかになってきた。

一般的に卵生とは体外に卵を産む繁殖生態のことをいい、ほとんどの魚類、両生類、爬虫類、鳥類がこれに該当する。一方、卵胎生とは卵を産むものの、胎内で孵化させて子を産む繁殖生態である。

ところが、サメ類の繁殖はこの2種類に分けるにはあまりにも多様な生態を持つ生き物であることが分かってきたのである。どういう事かといえば、卵胎生の中にも哺乳類のように親から栄養を供給する種類がいたり、あらかじめ生まれてきた子供の餌となるように無精卵を産むサメがいたりと驚くべき生態のサメが存在するのである。

まずはオーソドックスと思われる卵生のサメ類だが、全くオーソドックスと言えない卵の形をしている。イモリザメは縦:横:厚みが10:3:1くらいの靴べら状になった固い卵を産む。トラザメはイモリザメの卵の4角に螺旋状のヒモのような器官を備えた卵を産み、そのヒモのような器官で海藻などに巻き付いて卵を固定させる。更に、ネコザメは卵全体が螺旋状のドリルになっており、岩場などに押し入れて固定されるような形状になっている。サメの卵だけでも多様な生態が見て取れる。

私が学習してきた卵胎生といえば、母ザメが胎内に卵を産み、そのまま胎内で子ザメを孵化させるイメージである。まさにこのタイプの繁殖生態を持つのがジンベエザメだといわれている。ジンベエザメの胎内からは栄養が詰まった卵黄嚢を持った子ザメが見つかっており、卵胎生の王道といってもいいだろう。ただ、発見された子ザメには卵黄嚢の大きさが違う個体があり、複数回に分けて産卵しているのではないかと考えられている。

次に、生まれてきた子供の栄養となるよう、無精卵を同時に産むタイプである。ホホジロザメがこれにあたり、母ザメは胎内に有精卵と無精卵を産む。有精卵が孵化した後はそれらの餌として無精卵を食べるのである。人間の価値観からすると少しグロテスクなイメージを持ってしまうが、一方で合理的な栄養供給法であることは間違いない。

更に、卵胎生の中でも親から栄養を供給するタイプである。まるで哺乳類のように胎盤を持ち、母ザメから子ザメに直接栄養を供給する。シュモクザメがこれに該当し、卵黄嚢が変化したとされるへその緒と胎盤が母体に接続されている。何とも驚きの生態である。

これらサメ類の産卵生態をみてきた訳だが、サメ類の出現から4億年とされ、これは両生類の出現と同時期である。その後爬虫類、鳥類、哺乳類と多くの種が分化していることを考えると、サメ類の内部でも同じような繁殖生態の進化が起こってもおかしくない時間があったのである。サメ類とは、外見は変わらずとも内なる生態は進化し続ける神秘の生き物であり、生物の大先輩なのである。

我々はサメの生態を解き明かして学を修めたと思っているが、サメにしてみれば「何を今更、4億年遅いわ」と冷めた目で見ているかもしれない。我々は万物の霊長という夢から覚めて、朝飯を食べたらサメに慰めてもらわなければならない。(サメのダジャレはジョーズにいかない)

参考ページ:

研究室に行ってみた。沖縄美ら島財団総合研究センター 動物研究室 海のハンター・サメ(National Geographic Japan)

(by ぐっちー)

<編集後記>

※このエッセイ「妄想生き物紀行」は、ポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」の第42回「サメ と関連した内容です。ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。妄想旅ラジオは、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組です。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第42回「サメ〜サメ類の繁殖生態は脊椎動物の進化と同じだった?」いかがでしたでしょうか。

今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当・ホテル暴風雨オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

サメって本当にまだ謎だらけの、神秘的な魚なんですね。上記参考ページ(軟骨魚類学研究者・佐藤圭一さんのお話を聞きに行く記事)を読むと驚きのサメ知識が次々登場して知恵熱が出そうなほどですが、中でも「まだ全然わかっていない・こんなにわからない生き物なんだ!」という情熱的なメッセージが印象に残ります。エイとの違いを知ったくらいで喜んでいたのは甘かった……サメ先輩のすべてを知ろうだなんて4億年早い、サメ研究もなかなかジョーズにはいかない、ということで、

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