ヘビ〜神様に睨まれたヘビ

ヘビが大好きという人は希だろう。だが意外にも私のTwitterフォロワーの半数近くはヘビが好き、あるいは自分に危害が加わらなければ好きという回答であった。しかし、一般的にヘビは嫌われ者で、邪悪な生物として認識されているはずである。旧約聖書の創世記第3章によるとアダムとエバはヘビにそそのかされて、食べてはいけないと神に言われていた善悪の知識の木になっている実を食べてしまった。14節では、「神である主は蛇に仰せられた。『おまえが、こんな事をしたので、おまえは、あらゆる家畜、あらゆる野の獣よりものろわれる。おまえは、一生、腹ばいで歩き、ちりを食べなければならない』」と記述されている。ヘビは神にも嫌われてしまった。

宗教画のモチーフとしてこのシーンは多く描かれているが、どのヘビにも足がないし、アダムとエバはイチジクの葉を身につけている。ヘビはアダムとエバをそそのかした後に、神によって呪いをかけられ足がなくなってしまったと考えられるが、これらの絵にはすでに足がない。この状況を考えると、神がヘビ、アダム、エバそれぞれに呪いをかけた後、実況検分よろしくもう一回木の前に立たされてポーズを取らされていると考えられる。なんだか滑稽な絵になってしまうが、足があった頃のヘビの絵を是非見てみたいものである。

ヘビはなぜ神にまで嫌われるほど邪悪な生き物として認識されているのだろうか。その答えになるかもしれない実験が行われた。京都大学の研究によると人間の3歳から4歳の子供54人に対して、8枚の花と1枚のヘビの写真を見せ、ヘビの写真を選ぶまでの時間と、8枚のヘビと1枚の花の写真を見せ、花の写真を選ぶまでの時間を比較した。その結果、花の中からヘビを選ぶ方が素早く選ぶという結果になった。つまりヘビは目に付きやすく、ヘビに対する反応が早いことで恐怖心が芽生えてしまうのである。

確かに視界の端で細長いものがニョロニョロ動いたと思ったらヘビだったという経験がある。今回は写真を見分ける実験だったが、動画だったらもっとはっきりと差が出るのではないかと推測する。このヘビを察知する能力はヒトだけではなく、アカゲザルを使った実験でも実証され、類人猿全体がヘビを素早く察知する能力を持っていると考えられる。更に鳥よけとしてもヘビが使われており、ヘビは多くの生き物からも嫌われている。

しかし、人間界でもヘビを親の敵くらい嫌悪する人もいれば、ペットとして飼っている人もいて、その感受性は千差万別である。私自身はペットにするほどではないが、触ることもできるし、首に巻くことも可能なくらいの付き合い加減である。以前、仕事で使う長靴の中に小さなヘビが入っていることを知らずに足を突っ込んで驚いたことがあったが、噛まれなくて良かったなくらいの心境であった。もしヘビを心底嫌悪する人だったら大声を上げて卒倒していたかもしれない。それ以来長靴をはく時は中にヘビがいないか確認するようにしている。

つい先日恐ろしいニュースが入ってきた。Washington Postの記事によるとインドネシアで54歳の女性がヘビに飲まれて見つかったのである。夫がゴムの農場に行ったきり帰ってこない妻を探しに行ったら、サンダルや上着などが道に落ちていて、警察に通報したところお腹の大きなヘビが発見された。そのヘビの腹を割いてみたところ行方不明の女性が見つかった。ヘビは全長7メートルほどのアミメニシキヘビとみられ、女性を襲ったと考えられる。

記事には「このような報告が確認されるのは比較的まれで、1年に1回程度です。」(Confirmed reports like these are relatively rare, occurring around once a year.)と書いてあったのだが、毎年一人がヘビに飲まれるのはまれとは言えないのではないかと思う。ところが、正月に餅をのどに詰まらせる事故があり、毎年約300人の方が命を落としている。確かにこれだけの人数が死んでいるのに、まれと考えてしまっている自分がいる。そう考えるとまれなのかもしれない。インドネシアでは餅を食べるくらいの頻度でアミメニシキヘビに遭遇するのかもしれないが、毎年1名がヘビに飲まれて死んでしまうくらい身近な存在なのかもしれない。

そう考えると「ヘビなんて怖くない」と思っていた自分が恥ずかしくなってきた。日本で生活する限りこのような危険に遭遇することはないかもしれないが、ヘビを軽く見るべきではないと思えてくる。以前妄想生き物紀行33 「狂犬病」で書いたとおり、海外で動物と接するときは細心の注意を払わなければならない。旅行保険に入っているからと言って日本のような医療体制が取られているとは限らず、命を危険にさらすことになる可能性もある。

ヘビが好きと答えた私のTwitterフォロワーさんは考えを改めて、もっと慎重になる必要があるかもしれない。神様ほど嫌わなくてもいいので、長いものには巻かれろという考えは命を落とす危険をはらんでいると心得よう。

(by ぐっちー)

※このエッセイ「妄想生き物紀行」第62回はポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」第62回「ヘビ」と関連した内容です。ポッドキャストもお聴きになると一層お楽しみいただけますのでぜひどうぞ! ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。旅ラジオ」は、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組です、詳しい聴き方などは「妄想旅ラジオ」のブログを。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第62回「ヘビ〜神様に睨まれたヘビ」いかがでしたでしょうか。

今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当・ホテル暴風雨オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

7メートルのヘビが人を丸呑み……おそろしい!
実は私も「ぐっちーさんのTwitterフォロワーの中のヘビ好き」の一人。ぐっちーさんの周りに有意にヘビ好きが多いということは、ぐっちーさんがヘビに愛されているのか、ヘビ好きオーラを出しているのか、どっちなんでしょうね。どっちにしても、ヘビ=ファンタジー くらいの世界に住んでいるがゆえのヘビ好き(私もそれです)は、もう少しヘビへの警戒を強めないといけませんね。

Twiterでぐっちーさんと話そう企画

さて今回も、ぐっちーさんとみなさんと、Twitterでお話したいと思います。ヘビについて、神々のヘビ嫌いについて、危険食物「餅」について、などなど何でもお話しましょう。参加方法はTwitterに書き込むだけ、なので初めての方も、ラジオお聴きのみなさまも、質問してみたい人はもちろんただお話してみたい人も、エッセイを読んでの感想、ぐっちーさんへの質問やツッコミなど、ぜひお気軽に。お待ちしています。

斎藤雨梟のTwitterアカウント @ukyo_an  にて

↓こんな感じで↓ツイートしますので、よろしければみなさまもツイートへ返信してご参加ください。

ぐっちーさんとお話ししたもようは、来週こちらのサイトでまとめてお伝えします。Twitterでいただいた質問やコメントは記事内でご紹介させていただくことがあります。どうぞよろしくお願いいたします。では、Twitterでお会いしましょう!

ホテル暴風雨にはたくさんの連載があります。小説・エッセイ・詩・映画評など。ぜひ一度ご覧ください。<連載のご案内>