狂犬病〜海外で動物とふれあうには覚悟と準備が必要です

「妄想旅ラジオ」ポッドキャスター ぐっちーが綴るもう1つのストーリー「妄想生き物紀行 第33回 オリジナル特別編・狂犬病〜海外で動物とふれあうには覚悟と準備が必要です

今回は本家の妄想旅ラジオがお便り回ということで、独自のテーマでお送りしたい。このエッセイが公開される9月28日は世界狂犬病デーである。狂犬病はイヌが罹患する病気だと思っている方がいるかもしれないが、実は人獣共通感染症で哺乳類全般が罹患する可能性のある病気で、発症するとほぼ100%死亡する恐ろしい病気である。日本では飼い犬に対して狂犬病の予防接種を義務づけているため、国内での狂犬病発症はヒトについては1956年(昭和31年)、動物については1957年(昭和32年)以降発症していない。つまり、日本国内においては狂犬病の心配をする必要はないと考えて差し支えない。

ところが、1970年、2006年、2020年に計4名の方が日本国内で狂犬病を発症して亡くなっている。亡くなった4名の方はいずれも海外滞在中にイヌにかまれ帰国あるいは入国後発症した。前述のように一度発症してしまった狂犬病には治療法が無く、ほぼ手遅れと言っても過言ではないようだ。このエッセイを読んでおられる読者の皆さんには動物好きで旅行好きの人が多いと思うが、旅行先で動物とふれあうことはあまりおすすめできない。しかし、いくら気を付けていたとしても動物の方から無理矢理ふれあいを求めてくることもあるかも知れないので、その際の防御として予防接種が必要である。

そもそも狂犬病は狂犬病ウイルスに感染することで発症する。感染してから発症するまでの潜伏期間は約1ヶ月から3ヶ月といわれ、時には1年に及ぶこともあるらしい。近くに病院が無いような場所に行く場合は旅行前に予防接種を受けることをお勧めするが、それでももし狂犬病と思われる動物にかまれた場合はすぐに現地の病院で予防接種を受けることが重要である。そして帰国時にはその事を空港の検疫所で報告して欲しい。

狂犬病ウイルスは感染した場所から神経を伝って侵入してくる。最終的にウイルスが脳に達すると発症して命を落とすことになるが、脳にいたる前に自己免疫力で狂犬病ウイルスを一掃してしまえば発症を免れることができる。なので、できるだけ脳から遠いところをかまれた方が潜伏期間が長くなるというわけだ。2021年現在大流行中の新型コロナウイルス同様、狂犬病もウイルス性の疾患であり、ワクチンによる自己免疫力頼みの対策に依存しなくてはならない。

2021年9月中旬現在、Google Scholar による論文検索でタイトルに狂犬病(Rabies)の入る英語の論文は2021年1月~9月だけで350本以上、関連する論文も約7,000本と膨大な数に上る。ちなみに新型コロナウイルス(COVID 19)は約55,000本と桁違いである。狂犬病は新型コロナウイルス程ではないものの、毎日30本弱の関連論文が発表されるくらい世界的には大きな問題となっている病気なのである。

狂犬病は発症してしまったらどのような経過をたどるのだろう。まず、イヌなどに噛まれた場合、傷口のかゆみや全身の発熱などの風邪に似た症状が現れる。その後厚生労働省のホームページによると、「強い不安感、一時的な錯乱、水を見ると首(頚部)の筋肉がけいれんする(恐水症)、冷たい風でも同様にけいれんする(恐風症)、高熱、麻痺、運動失調、全身けいれんが起こります。その後、呼吸障害等の症状を示し、死亡します。」とある。神経を侵すウイルスであるため精神状態に影響が現れ、最期は呼吸などの中枢神経までもが侵される非常に恐ろしい病気であることがわかる。

インドでイヌに噛まれた人の手記を読んだ。手記によればその人は外出先からホテルに帰る途中、いきなり現れたイヌに足を噛まれたそうだ。その事をホテルのボーイさんに話すとそのボーイさんは「Oh my good」と言ってすぐさま近くの小さな病院に連れて行ってくれた。病院では医師が処方してくれた注射を打ったのだが、それが何の注射なのかその場では確認できなかったものの、狂犬病の注射であろうと勝手に考えていたようである。

彼は帰国後検疫でその事を申告しようかと思ったが、結局申告せずに入国した。しかしながら翌日になって心配になり近くの大学病院に受診しに行く。そこでインドの病院で処方された注射の処方箋を見せたところ破傷風のワクチンではないかとのことであり、すぐさま狂犬病のワクチン接種を開始した。

ここに至るまでに、このインドでイヌに噛まれた人は大きな間違いを3つも犯してしまっている。ひとつは旅行前に予防接種を受けていなかったこと。ひとつはインドの病院で受けた注射が何であるかを確認しなかったこと。そして最後に検疫で申告しなかったことである。本人も回想しているが、インドの田舎の小さな病院に高価な狂犬病ワクチンが置いてあるとは思えないし、検疫で申告していればもっと早くワクチンを打つことができたはずである。狂犬病ワクチンはイヌに噛まれてからでも有効であるが、3日以内に打つことが望ましい。また、4回ほど接種しないと完全な効果が得られないといわれており、初動が非常に重要である。

この他にも海外でイヌに噛まれた体験記を何件か読んだが、いずれも噛んだイヌが狂犬病ではなかったようで大事には至っていなかった。しかしながら、世界では毎年5万人以上が狂犬病で亡くなっている。社会がグローバル化して、何時日本に狂犬病が侵入してきてもおかしくない状況である。日本ではイヌを飼っている人たちがイヌの予防接種を受けさせているからこそ、安心してイヌを散歩させられるし、安心して子供を公園で遊ばせることができる。SNSで見かける予防接種を受けるイヌの表情には同情してしまうが、君のおかげで日本が平和であることを実感できるのである。

厚生労働省のホームページ

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/07.html

(by ぐっちー)

<編集後記>

※このエッセイ「妄想生き物紀行」は、毎回、ポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」の各放送回と同じテーマでお送りしていますが、今回は特別企画としてオリジナルテーマ「狂犬病」でお送りしました。妄想旅ラジオ第33回は「お便り紹介 ですので、こちらのほうもぜひ。ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。妄想旅ラジオは、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組です。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第33回「狂犬病〜海外で動物とふれあうには覚悟と準備が必要です」いかがでしたでしょうか。

今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

今回はぐっちーさんの発案で実現した特別企画、妄想生き物紀行オリジナルのテーマを私がリクエストさせていてだきました。本日(記事公開日)が9月28日、「世界狂犬病デー」だし、狂犬病といえばウイルス&効果のあるワクチンということでタイムリーだし、という軽い気持ちでお願いしましたが、狂犬病がいまだに抑え込めていないこれほど恐ろしく、海外旅行する人には案外身近な病気だとは、恥ずかしながらまったく知りませんでした。発症したら大変らしいというのはうっすら認識していたのですが、厚生労働省による「狂犬病発生状況」の地図など見ると驚愕します。海外へ行かれる方はどうぞお気をつけて。

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