サトウキビ〜C4なら真昼の陽が強いときでもラム酒を飲みながらババ抜きが続けられます

世界で生産される砂糖1億8千万トンのうち、約7割がサトウキビ原料である。残り約3割は甜菜、あるいは砂糖大根と呼ばれるビートである。サトウキビは低緯度、ビートは高緯度で生産され、サトウキビはブラジルが世界最大の産出国である。日本では主に沖縄で栽培され、2020年の統計によると国内生産量134万トンのうち、6割が生産されている。ちなみに2位は鹿児島で国内生産量の4割であり、沖縄、鹿児島で国内のサトウキビのほぼすべてを生産している。

サトウキビは荒れた土地でも生産でき、災害に強い植物である。また、連作が可能で、一度収穫しても根が残っていたら3年は収穫できる。これらの理由から沖縄や鹿児島の島嶼部で積極的に栽培されている。サトウキビ栽培には「挿し木植え」と「株出し」の大きく分けて2種類の栽培方法がある。「挿し木植え」は畑にサトウキビの枝を挿すことで根が出て大きくなる方法で、1年から1年半かけて成長させ春に収穫する。一方、「株出し」は春にサトウキビの根の上を収穫して、そのまま置いておくとそこから芽が出て翌年収穫できるという方法である。「株出し」は3年ほど続けると成長が鈍くなるので一度掘り起こし、1年ほど別の作物を栽培した後、再び「挿し木植え」で栽培する。

また、サトウキビはC4回路と呼ばれる特殊な光合成過程を持っており、効率的に糖を作り出すことができる。通常植物は12の水と6の二酸化炭素から6の水と1のグルコース(糖)が生成される。これをカルビン・ベンソン回路またはC3回路と呼び、ほとんどの植物がこの機構で光から糖を作り出している。トランプのババ抜きのように隣の人のカードを引きながら二酸化炭素を取り込んだり(トランプが追加される)、グルコースを排出したり(同じ数字がそろったら捨てる)しながら光が当たっている限り続けられるゲームをしているようなものである。

しかし、このカルビン・ベンソン回路は強い光が当たると二酸化炭素の取り込みが阻害されてしまう。ところが、C4植物はこのカルビン・ベンソン回路とは別のC4回路を持っており、強い光が当たっても二酸化炭素の供給が止まらずC3回路が止まってしまうことがない。つまり赤道付近の強い光でも他の植物に比べて効率的にグルコースを生成することができるのである。強い光の中のC3回路ではババ抜きのトランプが供給されず最後にジョーカーが残ってそこで終わってしまうが、C4回路が付いていると強い光でもトランプが供給され、日が沈むまでババ抜きを続けられるのである。

サトウキビは東南アジアのニューギニア島発祥で、紀元前6000年にはインドや東南アジア各地に広まったとされている。もともと家の建築資材として使っていたサトウキビのうち、極端に甘い汁が出るサトウキビを見出し、それを栽培したことがサトウキビのルーツとされているらしい。

当時の人はなんだか壁の1本だけベタ付くサトウキビがあるなと思ってなめてみると甘くてびっくりしたことだろう。次の年もサトウキビを収穫して建材にしようとしたら、また甘いサトウキビを見つけ、こっそり持って帰って家でチューチュー吸っていたかもしれない。そしたら村のお調子者に見つかってしまい、「そんないい物どこで見つけたんだ」と迫られ白状したところ、その噂を長老が聞きつけ若い者に「挿し木植え」を命じて栽培が始まったのかもしれない。

このようにして突然変異で出現したサトウキビを運良く栽培できた人類は、その分布を世界中に広げることに成功するのである。特に16世紀以降にはヨーロッパ人がカリブ海に入植した際、サトウキビの生産が開始された。土地が痩せていても、ハリケーンなどの風が吹いても栽培ができるサトウキビはプランテーション農業の代表となった。プランテーションでは砂糖を主に作っていたが、サトウキビを搾った後の搾りかすにもまだ糖分が含まれており、これを発酵させるとアルコールが生成される。

砂糖を搾った後の搾りかすは当初工場の敷地内に放置されていたのだろう。次第に腐ってひどい臭いを発生させていた可能性が高い。ところが、ある条件が重なった時いつもと違う香りが漂ってきて、それがアルコール発酵していることにポンセ(仮名)は気付くのである。ポンセはすぐに搾りかすを別の容器に入れて発酵させ酒を造ることを試みた。しかし、出来上がった酒は不純物が多くとても飲める物ではなかったので蒸留してみることにした。そうしてついにラム酒が完成したのである。ラム酒は船乗りに人気となり、そのうちヨーロッパに対する重要な貿易品にまで成長したのである。ポンセは大金持ちになったことだろう。

近年では環境意識が高まり、バイオエタノールを精製して化石燃料の消費を抑える取り組みが行われている。その原料としてサトウキビが使われているが、その製造方法はラム酒と大きく違わない。今のところ日本でラム酒を購入する場合、一般の小売価格は約700ml入りで1,500円から10,000円程度である。一方、バイオエタノールの単価は10Lあたり5,500円程度で、それぞれ1Lあたりに換算するとラム酒が2,100円から14,000円、バイオエタノールが550円と、ラム酒の方が単価が高い。しかし、市場規模ではラム酒が1,126億ドル、バイオエタノールが3,361億ドルとバイオエタノールの方が市場規模が3倍も大きい。

人が娯楽を楽しむことができるのも環境が整っているからこそである。昼間からラム酒片手にババ抜きなんて一度やってみたい。しかし、今後は娯楽よりも環境保全が優先され、サトウキビの搾りかすはラム酒ではなくバイオエタノール生産に回されることになるかもしれない。

(by ぐっちー)

※このエッセイ「妄想生き物紀行」第67回はポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」第69回「サトウキビ」と関連した内容です。ポッドキャストもお聴きになると一層お楽しみいただけますのでぜひどうぞ! ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。旅ラジオ」は、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組です、詳しい聴き方などは「妄想旅ラジオ」のブログを。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第69回「サトウキビ〜C4なら真昼の陽が強いときでもラム酒を飲みながらババ抜きが続けられます」いかがでしたでしょうか。

今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当・ホテル暴風雨オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

ラム酒とバイオエタノールの製法はさほど変わらないとは言っても、味は違う……んですよね? 蒸留してしまえばアルコールなんかみんな同じと思っていましたが、バイオエタノールも原料によって味が違うのか、どうなのか。あと、夏になると無限かというほどそのへんに勝手に生えてくる草を見るたび「これ、バイオエタノールくらいできないものか?」と思いますが、可能なのか。謎がいっぱいなのでぐっちーさんに聞いてみたいです。どこで聞くかというと、Twitterで!

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