番外編4「育児は毎日緊急事態」

新型コロナウィルスの感染拡大によって政府から緊急事態宣言が発令されたが、自分を含む育児中の方々の気持ちはきっとこうではなかろうか。

「子供が生まれてから毎日が緊急事態だけど、宣言してるヒマがなかっただけです」

緊急事態宣言の発令、これはもちろん大変な事態である。育児をしているみなさんの不安とストレスは相当なものだろう。
自分自身先の見えない状況の中、この先のことを模索する日々が続いている。

しかし、小さな子供にはそんなことは全く関係がない。
今日の晩御飯(しらすと塩昆布とごまのまぜごはん、野菜のお味噌汁)はあんまり食べたい気分じゃないからそこのトースターの上にナプキンで巧妙に隠してあるバナナ(バレてる)をよこせとテーブルをバンバン叩き、もう100万回見たんじゃないかとさえ思う機関車トーマスのアニメを見せろとテレビのリモコンを振り回し、そうかと思うと友人がプレゼントしてくれた三輪車にまたがって意味不明な叫び声をあげながら狭いキッチンを爆走する。
色鉛筆やクレヨンをばらまいて抽象画をあらゆる場所に描こうとし、それが食べ物であるかどうかは別にして全ての味と食感を確かめようとする。そして急に鼻血や熱を出したりもするのだ。
育児を経験している方々にとって、毎日は緊急事態以外の何物でもないが、育児経験のない人にこれを理解してもらうのはなかなか容易なことではない。

そんな子供の姿を見て思ったのは、これが生きるということなのかもしれない、ということだ。1歳9ヶ月の子供にとっては、とにかく今この瞬間が全てなのである。

今、その瞬間に生きる。そのことはいつも大切だと思っているつもりだ。
しかし、大人になればなるほどそれは難しくなってくる。大人は過去の経験から学び、未来を想像するという力を持っている。しかしその力によって大切な今を見失ってしまうこともあるのだ。これは自分自身のことでもある。

大人は今「やりたいこと」よりも「やるべきこと」を優先する。それは社会で生きてゆくために必要なスキルであり、人間はひとりでは生きていけない、ということを知っているからだと自分は考えている。

やるべきことというのは、自分の欲求を超えて他の何か、例えば子供のために時間や労力を費やすことである。そしてそれが役に立った時、何かが自分にフィードバックされる。自分に出来ることを必要としている誰かに提供し、それによって助けられた人はその恩恵を他の誰かに伝える。世の中はそうして成り立っているはずだし、そうであって欲しいと思っている。

先の番外編で募集をして読者のみなさんからいただいた「心のコントロール術」はこういう状況の中で自分にとっても本当にありがたく、助けになるものだった。
このノートは育児中の方々をはじめこれから育児をする方、育児を懐かしむ方とも共有したいということはプロローグにも書いたが、今そのことをあらためて強く感じる日々である。

そんなわけで、今回の番外編はとにかくなんでもいいので、子供が巻き起こした奇想天外な事件や思わず笑ってしまったこと、相談などを募集して共有したいと思います。
言うなれば自粛ではなく、自分からの「育児の息抜き推進要請」です。もちろん助成や補助は出来ないので強制力はありません。好き放題に書いて送ってください。

<こちらへ→ 育児の息抜き係

学校や育児施設が休みになって子供と過ごす時間が長くなれば、きっといろんなことが起こることでしょう。もちろん困ったことや切迫した状況下にある方々(自分か?)もたくさんいらっしゃると思いますが、そういう時でも視点を誰かに向けてものを考えるというのは、とても助けになります。自分に出来ることは本当に少ないですが、このノートが少しでもみなさんの息抜きになればうれしいです。
いつもの日常が戻ってきた時、子供も自分たちも大きく成長していることを願うばかりです。

まずは自分からみなさんへのお便りです。(記入例)

せっかくごはんを作ってもほとんど果物しか食べてくれない時期があり、「モデルかっ!おまえパリコレでも目指してんのか」と思ったこともありましたが、最近はどの相撲部屋に入るつもりなのだろうかと考えています。
(東京都・家事手伝い)

クローゼットの扉に色鉛筆で抽象画を描かれた時、ため息まじりに「あーあー・・・」と言ってしまったため、その後何度もその絵を指差して「あーあー・・・」と残念そうに言います。お前が描いたんだろうが!と思いますが、作品は悪くないと反省しています。
(東京都・自営業)

本棚から持ってきた本を「ぽい!」と言いながら投げるのですが、太宰治の「ヴィヨンの妻」と村上春樹の「カンガルー日和」でした。何かを示唆しているのでしょうか。気になるのでもう一度読んでみようと思います。
(世田谷区・ライター)

パンツタイプの紙オムツを頭にかぶろうとします。大人になってお酒を飲んだ時などに同様の行為をしないか心配です。
(東京都・イベント制作)

(by 黒沢秀樹)

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