タオルケットの秘密基地

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自分は基本的にアウトドア全般にあまり縁のない人生を送ってきたが、先日、コロナ療養中に子どもが何か自宅で遊べるものはないかと思い、以前友人家族に誘われて河原に遊びに行く際に買った小さなテントがあったのを思い出した。
1、2回使ったきりで、広げて組み立てたはいいものの、海外製の安価なものだったので説明書が意味不明で畳み方が全くわからず、無理矢理折り畳んでそのままになっていた。
子どもが遊ぶリビングにこのテントを広げてみたところ息子は大変気に入ったらしく、お昼寝はテントの中でするという日が数日続くことになった。このおかげでテントの畳み方を覚えてその後大きな公園に出かけた時にかなり役立ったりしたわけだが、超がつくほどのインドア派の自分がまさかテントの畳み方をYouTubeで検索する日が来るなんて全く思っていなかった。人生とは本当にわからないものである。

しばらく経ったある日、寝かしつけのためにベッドに入ると、息子が「テントの中で歯磨きしようよ!」と言い出した。「テントは今ないよ」と言うと、「これでテントを作るんだよ!」と、ベッドにかかっていた大判のタオルケットを引っ張り出し、自分にかぶせはじめた。仕方なくタオルをかぶったまま座っていると、モソモソとその中に入ってきて膝の上に寝転がり、「あ、そこが開いてるよ!」と寸足らずで空間ができてしまっているところを見つけ、きちんと閉めろと指示が出る。
タオルをすっぽりかぶったままベッドの上でじっと座っているのは外から見たらかなりおかしな光景だとは思うが、子どもがしたいというのだから仕方がない。
ようやく満足して歯を磨いてもらうと、今度は「お水飲みたい、父さんはテントを守ってて」と言い残して外に出た。
しばらくタオルをかぶったまま待っていると、今度は手に絵本を持っている。

「テントの中でこれ読もうよ!」

仕方なくタオルをかぶったまま絵本を一緒に読みながら、一体自分は何をしてるんだろうかと思いつつ、そういえば自分も小さな頃、押し入れに懐中電灯を持ち込んで本を読んでいた記憶が甦ってきた。子どもはどうして押し入れやテント、ダンボールの中などの狭い空間が好きなのだろう。
気になってちょっと調べてみると、そんなことまでちゃんと研究対象としている人たちがいて驚いたが、基本的には人間という動物が持っている本能、遺伝子的なもので、敵から身を隠すという行為の名残りや、幼児の場合は母胎回帰の欲求が起こさせる行動らしい。

このような「秘密基地遊び」というのは世界共通で、主に小学校低学年くらいから大人には見つかりにくい場所で、一定の年齢の集団で行われるものと定義されるらしいが、息子はまだ4歳で、しかも大人である養育者の自分と一緒にその秘密基地を作りたがるので、敵から身を隠す本能と母胎回帰の両方が入り混じっている状態なのかも知れない。
ともあれ秘密基地の仲間に入れてもらえるのは信頼されているという証でありがたいことだが、言い換えれば自分と同じレベルの動物だと思われているのかもしれないので、両手を上げて喜んで良いものなのかは謎である。

しかし、タオルのテントが自分と仲間だけのプライベートな場所という意味では、周囲からの干渉を受けずに安心して過ごせる自分だけの環境を確保したいという自立心の芽生えなのではないかとも思う。小さな子どもはひとりでは何もできない状態から、少しずつ自分で出来ることが増えていく。その過程で大人に干渉されない場所を自ら作り出そうとするのは自然なことである。大人がそうであるように、子どもにだって発達の過程で一定のプライバシーは必要なのである。

大人になっても自分だけの秘密基地を持ちたい人はたくさんいるだろう。自分たちのような職種の人間にとってはスタジオがまさにそういう役割を果たすわけで、いつか自分のプライベートスタジオが持ちたい、という夢を持ち続けてはいるが、タオルケットでテントを作れる息子を見習って、今ある環境で工夫をしてみようと思っている。

(by 黒沢秀樹)

『できれば楽しく育てたい』黒沢秀樹・著 おおくぼひでたか・イラスト

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※編集部より:全部のおたよりを黒沢秀樹さんが読んでいらっしゃいます。連載のご感想、黒沢さんへの応援メッセージなど何でもお寄せください。<コメントフォーム
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