子どもはだいたい知っている

この二週間はまさに綱渡りの日々だった。
育児と仕事、このふたつを同時進行させることの大変さについて語られることは多いが、ことさら自分のような仕事をしている人間にとってこの期間は不安と緊張の連続だった。

12月4日は自分のデビュー30周年に合わせたホールコンサートがあり、このところはその準備で日々慌ただしい気持ちで過ごしていた。結果的になんとか良い形で締めくくることができたのは参加してくれたファンとスタッフ、そしてどうにか熱も出さずに元気でいてくれた息子のおかげであり、心から感謝している。

とりあえず自分とギターさえあればどうにかなるライブハウスやカフェでの弾き語りのライブと状況は全く違い、ホールコンサートとなると音響や照明、舞台や配信などの段取りは欠かすことができないし、それをオペレーションするスタッフの人数も比較にならない。限られた予算と時間の中でこの仕事を成立させるのは、今の自分にとっては気が遠くなるほどのことだった。

しかし子どもはそういう状況を敏感に感じ取り、「こういう時に限って」さまざまな問題を引き起こす。養育者の気持ちに余裕がなくなると子どもに対して割けるエネルギーが減少し、子どもは当然かまってもらえないことに不満を感じはじめるからだ。
不満を感じた子どもはわざわざ養育者を困らせるようなことをしたり、わがままを言ったり体調を崩したりする。そのことは理解しているつもりなのでなるべくいつも以上に平静を装うわけだが、そんな大人の気持ちの変化さえも、子どもは実に敏感に察知している。この部分に関しては子どものほうが一枚も二枚も上手であることは間違いない。

息子はどうやら自分の父親が音楽をやっていることは理解してくれているようだが、終演後に急いで車を走らせて迎えに行くと、帰り道に言った言葉はこうだった。

「父さん、おうたおわった?」

かまってほしい時にのんきにうたなんて歌っていて申し訳ない。でも父さんはこれがお仕事だし、そんなに悪くないと思ってるんだよ、と心の中でつぶやいた。

そんなわけでもうすぐまたやってくるクリスマス、そして年末年始というミッションをどうくぐり抜けるかを思案中である。

(by 黒沢秀樹)

『できれば楽しく育てたい』黒沢秀樹・著 おおくぼひでたか・イラスト

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※編集部より:全部のおたよりを黒沢秀樹さんが読んでいらっしゃいます。連載のご感想、黒沢さんへの応援メッセージなど何でもお寄せください。<コメントフォーム
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