37.6度

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この数日間、息子はまたしても突発的な体調不良になり病院で検査を受けた結果、ヒトメタニューモウィルスというものに感染してしまったらしい。
聞いたこともなかったこの感染症は比較的近年特定されたもので、現在ワクチンや治療法もなく、ひたすら何度も感染して抗体をつくりだすしか効果的な予防法がないらしいが、ざっくり言えば非常に一般的な子どもの風邪である。
一時は39度を超える発熱や咳の症状も出たこともあったのでまた子どもと一緒に家の中で過ごす時間が多かったわけだが、水ぼうそう、RSウィルス、手足口病が切れ目なく続いた1歳の夏の壮大な感染症メドレーを思い出すと、現在は体調不良を言葉にして伝えられるようになっているのでずいぶんと気持ちが違う。しかし、ちょっと熱があったり咳が出る程度では自分よりもはるかに元気な子どもと家で過ごすのはやはりなかなかに体力と気力のいる作業である。

ある時、集中してアニメを見ている隙に少しだけ作業を、と思いパソコンを立ち上げると、5分としないうちに「父さん、一緒にお仕事する!」とやって来て、スタンドに立てかけてあるギターを叩き始めた。大きい音が出るのが楽しいらしいが壊されると非常に困るので、手に取ってこれはそういう演奏の仕方をするものではないと言うことを伝えるが、子どもとしては弾けないから叩いているわけでそんなことはお構いなしである。
さらにコンピュータのモニターのあるデスクの椅子によじ登り、打ち込み用のキーボードを叩き出す。いろんなスイッチやノブを触ろうとするのでなんとか阻止しようとしたが、こうなるともう何も手につかないので、しばらくそのまま遊ばせてみることにした。

もちろんめちゃくちゃであるが、たまたま立ち上げていた音楽制作ソフトの音源が鳴ったので、ふとこのプレイを録音してみようとこっそりRECボタンを押してみた。
そして息子の初めてのセッションをプレイバックして聞かせてみようかとも思ったが、次の瞬間には「もうおしまい!」と言ってクローゼットに入りこんでしまった。

「ミュージシャンのクリエイティブ育児ノート」と表明している以上、何かしらの結果を残すことも大切だろうと思っていたら、ちょっと前にギターの音だけをバラバラに録音してコンピュータ上で編集してコラージュしたらどんな感じになるかを試していたことがあるのを思い出した。
その中に息子の演奏?したデータを乗せて、適当な音源が鳴るようにしてコラージュしてみたら、これがなかなか面白かった。
もちろん演奏というか、ただ叩いているだけだが、これ以上の即興はなく2度と再現できないことは間違いない。
なんとなく全体の音量バランスを取って自分のオンラインコミュニティ「SecureBase」の中にその曲をアップしたら思いのほか評判が良かったので、この時間も無駄にはならなかった、と自分に言い聞かせている。

自宅で育児をしながらこういうタイプの仕事するのはほぼ不可能に近いが、自分が子どもとどう向き合うのか、ということは、自分とどう向き合うかということとイコールである。
どんな養育者でも思うようにいかない毎日を苦行のように感じたり、一体自分が何をしているのかわからなくなることもあるだろう。しかし、そこに何かが生まれる可能性はゼロではない。

ちなみにその曲には「37.6」というタイトルをつけた。発熱の基準値37.5度をちょっと超えたところからスタートしたこの期間を思い出すにはうってつけのタイトルだ、と思っている。

(by 黒沢秀樹)

『できれば楽しく育てたい』黒沢秀樹・著 おおくぼひでたか・イラスト

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※編集部より:全部のおたよりを黒沢秀樹さんが読んでいらっしゃいます。連載のご感想、黒沢さんへの応援メッセージなど何でもお寄せください。<コメントフォーム
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