絵本地獄、再び

このところは歯磨きと絵本が1日の育児業務の仕上げになってきており、毎晩ベッドに入って絵本の読み聞かせをしている。以前にも絵本の読み聞かせについて書いたことはあったが、3歳半を超えた頃から子どもの絵本に対する理解力は飛躍的に向上しており、簡単な絵と言葉だけの本から、ストーリーのしっかりある、かなりの長さのある本にも集中して向き合えるようになってきた。

今日はいただいたものや最近買ったもの、図書館から借りてきたものなどランダムに10冊程度がベッドに持ち込まれ、それらを読む順番まで指定されることになった。以前から気に入っている飛び出す絵本や、乗り物や食べ物がテーマの小さくてシンプルなもの、かなり大判のイラストがメインのものまでが入り混じっており、これを子どもが納得して眠りにつくまで読み続けることを考えると心の中で思わず声が出た。

「マジか。。。」

しかし、ここでめげてしまうわけにはいかない。この作業は自分にとっても何かしら得るものがあるはずだ。その結果がきっとこの育児ノートに反映されていくのである。絵本地獄は、子どもにとっては絵本天国なのである。

以前と違うのは言葉が理解できること、絵と言葉の関係性によってつながっていくストーリーがわかることである。これは物事に対する認知の統合ができるようになったということであり、それをもとに判断や想像をすることができるということでもある。これはとても大きなことだと感じている。

当たり前だけれど、絵や文章を目にしたり話を聞いたりした時に、どう感じるかは子どもそれぞれである。以前も書いたが、その感じ方を養育者が知ることで子どもの物事に対する認知の仕方や反応傾向、個性のようなものが見えてくるかもしれないし、あまりに一般的ではない反応や、もしくは全く反応しない場合は何かしらの問題を抱えている可能性もある。
そう考えると、読み聞かせというのは絵本というものを介した養育者と子どものコミュニケーションの手段のひとつとして、とても役に立つものなのである。

たとえば自分の息子は大人では見過ごしてしまうような部分を実によく見ており、絵本を読んでいる途中に思いがけない質問を投げかけてくる。

「この星は誰がつけたの?」
「さっきの黄色いカタツムリはどこ?」
「この消防車はなんで外にいるの?」
「タコさんはどうしてここにいるの?」

ストーリーの流れにはほとんど関係がないことなのでそんなことを考えもしなかった自分は、心の中で「そこ?そこ気にする!?」というツッコミを入れつつもその時々に思いついた行き当たりばったりな答えをしたり、もしくは「どうしたんだろうね?」などと聞き返したりもしていた。
しかし、何度か同じ本を読み返しているうちに、息子が興味を持ったり質問をするタイミングが毎回同じところであることに気がついた。自分にとってあらすじには関係のないように思えるタコさんの描かれている場所が、息子にとってはとても重要なのである。これが子どもの個性がおぼろげに見えてくる瞬間なのではないか、と感じている。

そして思ったことは、本の読み方にもそれぞれの養育者の個性が出るということである。
保育や教育に関連している方々以外には、一般的に絵本の読み聞かせを自分の子ども以外にする機会はあまりないので、客観的に自分の朗読を聞く機会は少ないだろう。しかしその人の絵本の読み方は、きっと幼少期の自身の経験がベースになっているのではないだろうか。
養育者がどんな本を、どんなふうに受け止めて読むのか。それは間違いなく子どもにダイレクトに伝わっていくはずである。
自分の読み聞かせは子どもにどんなふうに届いているのだろうか。これは仕事柄わかっていることだけれど、自分が思っている言い方や声の調子と、子どもに聞こえている実際のそれは、かなり違っているのではないかと思う。一度録音して聞いてみるのもいいかもしれない。
子育てというのはやはり、子どもと一緒に自分の幼少期を検証し、再構築できる機会であることをあらためて感じている。

(by 黒沢秀樹)

『できれば楽しく育てたい』黒沢秀樹・著 おおくぼひでたか・イラスト

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※編集部より:全部のおたよりを黒沢秀樹さんが読んでいらっしゃいます。連載のご感想、黒沢さんへの応援メッセージなど何でもお寄せください。<コメントフォーム
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