逆立ち期

黒沢秀樹のひとりぼっちライブ配信。大切なお知らせあります。

ある日、息子が逆立ちをはじめた。
いつものソファーに座ってアニメを見ていたはずだが、背もたれの部分に背中を当てて逆立ちをし、着ている服がはだけてお腹が丸出しになっている。
「ひっくり返るとあぶないよ」と声をかけるも全く聞こえていない様子である。
「ねえ、どうして逆立ちしてるの?」と聞いても返事はない。ただひたすらに逆立ちをして足を動かしている。
しばらくすると、何もなかったかのようにそのまま座ってアニメを見ているのでひとまず放っておいたが、振り向くとまた逆立ちをしている。いったいどういうことなのだろうかと思いまた声をかけるも、やはり返事はない。
表情は「無」であるが、しっかり逆立ちをしたままアニメは見ているようだ。そしてやはりおへそが丸出しになっている。

子どもはある日突然このようなことをしはじめるが、どういうことなのかさっぱり意味がわからない。アニメを見るにも逆さまになっていたら見にくいんじゃないかとも思うが、それはもはや遺伝子に組み込まれた習性のようなものらしく、どうやら無意識に逆立ちの衝動に駆られるらしい。
その話を子どものいる友人にすると、どうやらかなりの高確率で子どもは逆立ちをしはじめるようである。気になって調べてみると、やはり逆立ちする子どもは珍しくないようで、様々な疑問や意見がweb上に散らばっていた。多くは危険がなければそのまま放っておいても問題はないということらしいが、やはり「振り向けば逆立ち」という謎の状況は気になる。
以前月齢の近い子どもたちが3人集まってテレビを見ていた時、ソファーに座って全員が同じ体勢で鼻に指を入れてほじっていたことがあったが、それと同じようなものかもしれない。
子どもはどうして無意識に逆立ちしたり鼻をほじったりするのであろうか。

しかし振り返ってみると自分も子どもの頃、タンスを背にして逆立ちをしていたような気もするし、ソファーやベッドの上でひたすら足をバタバタさせていたような記憶がある。なぜかと聞かれてもよくわからないけれど、何かのストレッチのような感覚だったような気もする。大人に例えて一番近いのは貧乏ゆすりのようなものかもしれない。貧乏ゆすりにも諸説あるが、血流の改善やストレスの発散効果があるものの、あまりにひどい場合は別の神経系の疾患を疑われる場合もあるらしい。
子どもの逆立ちは急速に体が成長していく過程で、運動をすることによって筋肉や骨の成長を促進させているのかもしれないし、何かどうにもならない感情の表出を逆立ちという形で表現しているのかもしれない。いずれにせよ、何か自身にとって必要な動作なのだろう。

その疑問を解決するために、思い立って久しぶりに子どもを真似て自分も逆立ちをしてみることにした。クローゼットの扉を背にして両手を床に着き、足をあげてから両手を伸ばしてみると、思わぬことに気がついた。結構「きもちいい」のである。特に逆立ちしたまま足を動かすと、太ももの付け根の部分などがかなり凝り固まっているのが感じられるし、座ってパソコンに向き合っている時間が多いことで悪くなっている血流は確実に改善されるような気がする。なるほど、子どもはこういう感覚を求めて逆立ちをしているのかもしれない。
ひとしきり自分としては納得がいったところで、また逆立ちをしている息子にあらためてしっかり聞いてみた。

「ねえ、どうして逆立ちしてるの?父さんに教えてくれない?」

逆立ちのまま息子はしばし考えた末、こう答えた。

「自分を守るためだよ」

「自分を、守るため。。。?」

そんな大きなテーマが逆立ちの向こう側にあったとは予想もつかなかったが、そのうちもう少し詳しく聞きたいところである。

(by 黒沢秀樹)

『できれば楽しく育てたい』黒沢秀樹・著 おおくぼひでたか・イラスト

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※編集部より:全部のおたよりを黒沢秀樹さんが読んでいらっしゃいます。連載のご感想、黒沢さんへの応援メッセージなど何でもお寄せください。<コメントフォーム
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