グリーンサークル彼岸列車とゲートウェイ

わたしのゲートウェイ illustration by Ukyo SAITO ©斎藤雨梟

このごろ都にはやるもの、それはゲートウェイ

みなさまこんにちは。ホテル暴風雨・雨オーナーこと斎藤雨梟です。

私は東京に住んでいるのだが、この頃東京で流行っているものというとやはりアレだ、山手線の新駅開業騒動。

「ま〜るい緑の山手線♪」という某家電量販店のCMソングに昔から歌われているものの、今はそんなに緑色でもないことでお馴染み、山手線といえば、東京都心を取り囲み、主要ターミナルをつないで走る環状線である。

その山手線の40年ぶりの新駅の駅名「高輪ゲートウェイ」が発表され、現在大変な騒ぎである。評判は概ね最悪、この歴史的騒動を、自分の感じ方や世の中での騒がれ方の記録としても書いておこうと思った次第だ。

新しい駅や、前からあった駅にちょっと面白い名前をつけるというのが、ここ10年以上続く一つの潮流なのは間違いない。古い地名ではなく、その土地の特色や魅力を端的に表し、興味や話題を誘うような駅名は、観光地などでは見たところ良い効果を生んでいる。

よって、ちょっとくらいの浮かれた駅名は許される昨今、なぜこれほど大騒ぎされているのか?

まず山手線といえば日本有数の混雑ぶり(これでも日本一でないところが恐ろしい)でその名を轟かす通勤路線。観光列車ではなく、スピードと利便性が売りの東京の大動脈。ラッシュ時なんぞは0.001パーセントくらい増えたイライラが導火線に火をつけかねない。まさかこんな修羅道のような場にあんな珍妙なネーミングを持ってくるとは予想外! と、山手線ユーザーたちも完全に油断していたところに冷水を浴びせるがごとき仕打ちだったのが理由の一つだろう。

私自身は、最初にこのネーミングを聞いた時、かっこいいとかセンスがいいと思えと言われればそれは無理だが、おおかた「ゲートウェイなんとか」という大規模開発の計画でもあって、そこに人を呼びたいのだろう、と考えた。鉄道だって商売だ、商売上の色気を出すことを誰が責められよう。

しかし、なんとこの新駅のネーミング、一般公募されていたと後から知って度肝を抜かれた。しかも「高輪ゲートウェイ」という候補は公募の結果130位だったらしい。

なにそれ面白すぎる。「公募にする意味がねえ!」というごく普通の反応をしない稀有な人をあぶり出してゲートウェイ親善大使に任命すると称して捕まえて研究材料にしようとかそういう罠!? 疑問を持たない従順な人間の遺伝子を遺伝子編集で日本中に広めようとしてる? くわばらくわばら……

というのが率直な感想だった。私の妄想もひどいが、公募しておいてこの所業というのもたいがいひどい。「新駅誕生」の歴史というより、「やらかし」の歴史の1ページにしっかりと刻まれそうだ。しかも「E電」に続き30年ぶり2度目の盛大なやつ。E電をご存知ない若い方はその辺の年寄りに聞いてみてほしい。

怒りと景気への影響

公募の件は怒られても致し方ないというものだが、それは置いといても、Twitterなんか地獄の大喜利状態だろうなあとちょっと覗いてみると、ライトにおちょくっている人より本気で怒っている人の多さにまた驚く。

公募したなら票数を重視すべきという意見に対し、元都知事の鶴の一声がなければ都営大江戸線だって公募の結果「ゆめもぐら」なんてダサい名前になってたんだぜ? 票数なんぼのもんじゃ! という意見も見られた。確かに最多票を必ず採用する必要はない(そう確約しておいて後でやめない限り)が、少数票の候補の方が格別に素晴らしくない限り説得力がない。知事が言ったから、とかダメだろう。だいたい、私は断然ゆめもぐら派であった。自分の中では「大江戸線」を常に「ゆめもぐら」と呼んでいるし、自分の外でも何なら今から「ゆめもぐら」に改称して欲しいくらいだ。あと、都営荒川線が「東京さくらトラム」になっているのもちょっと解せない。

話が逸れたが本気で怒っている人はかなり多数に上ると見られる。都知事でもない限り自分の好きなように駅や路線を命名できやしないのだから、上述のようなモヤモヤは日常茶飯事だというのに、ここまでの怒りを生むには特別な理由があるのだろうか?

とにかく目立つのは、「こんな駅名は恥ずかしい、ダサい」という意見。恥ずかしくダサいものを排除していたら少なく見積もって東京の八割は消滅すると思うが、いいのか。考えたら別にいい気もするけどそれはまた別の話。

新駅ができるのは駅が密集している地帯なので、新しい路線図を作る際、度を越して長い駅名を無理やり入れるためには、図上の山手線や周辺路線の曲率や径の大きさまで変更を余儀なくされるだろう。デザイナーの苦労を何だと思ってる!という文脈の怒りも目についた。

ごもっともだが、逆にこの新駅名に、路線図を大幅に描き直さなければいけないとなれば新たな需要が生まれ景気が上向くだろう、という思惑が絡んでいないとは言い切れない。だが、オフィシャルな路線図はさておき、だいたいのところは「高輪GW」(GとWは半角)で済まされて終わりではないかと私はふんでいる。だって路線の形から直すなんてめんどくさすぎる。

それより、長い間「GW」と言えばこれに尽きるというGW界の覇者だった「ゴールデンウィーク」の時期に、「GWとか言われるとゲートウェイみたいで出かける気なくすわ」とみんなが言い出して景気が後退しやしないか。

ゲートウェイってなんだ?

与太話はさておき、東京都民はおもしろ駅名に不寛容かというとそうでもない。現に、かなりの浮かれキラキラネームである「とうきょうスカイツリー駅」は許容されている。あれはなぜかといえば、「あの駅はスカイツリー駅と呼ぶしかないよなあ」と納得させる根拠、つまり「スカイツリー」が近くにあるからだ。東京タワーに代わる電波塔であるスカイツリーは計画の段階から話題で、建築中も、まだ半分も建っていないうちからその巨大さを誇示する新奇なデザインで威容を誇り、完成するやいなや人が大勢詰め掛ける大観光地となった。完成当初に比べれば集客していないとも聞くが、総じてうまくいっているプロジェクトなのだろう。「スカイツリー」の名称も公募で最多票のものを採用したというし、もはやみんなのスカイツリーであり、東武鉄道が東武伊勢崎線の一部を「東武スカイツリーライン」と称し、業平橋駅をスカイツリー駅と改称して浮かれても、「あれはもうしょうがない」のだ。

ひるがえって、「ゲートウェイ」ってなんなんだ?という話である。要はそういうことなのではないか。

「おおかた大規模開発の計画でもあるんだろう」と先述の通り思った私はチョチョイと検索してみた。確かに「グローバルゲートウェイ品川」という計画はあるらしい。だが、なにをどう開発するかは薄ぼんやりとしか提示されていない。これだけ奇天烈な新駅名で大炎上した後に、できたのが普通の大型商業施設だったら誰も納得しない。

新駅名の撤回を求める署名運動まで起きているというが、一度発表したものを「評判悪いからやめます」と改めるとはどうも思えない。

じゃあ、どんなゲートウェイができればあの、開業前から黒歴史の色合いを帯びてしまった不幸な駅名が浮かばれるというんだろう?と考えるのが、前置きが長くなったが本記事の本題だ。新駅名に賛成か反対か、その理由は何か、と表明したかったわけではない。

現代のゲートウェイ、それは異世界への扉

ゲートウェイとはもともと門とか入り口とかを意味する言葉だが、今時「ゲートウェイ」と言われたらIT用語であるところの「ゲートウェイ」を思い浮かべる人も多いと思う。

私の理解はかなり大雑把だが、IT用語の「ゲートウェイ」とは、異なるプロトコル同士をつなぐつなぎ目であり、スムーズにつなぐための変換機能を持つ重要な場所のこと……じゃないだろうか。

つまり、違うルール、違う価値観で回っている二つの世界をつなぐつなぎ目こそが「ゲートウェイ」と呼ぶに足る。

というわけで、高輪ゲートウェイ駅周辺をどう開発したら誰もが納得するか、というか私が納得してなおかつ面白いか、考えてみた。要は東京という街、日本という国、地球という星、などなどと異世界を結ぶ門をあの辺に作ればいいのだ。

1)高輪ゲートウェイ周辺を日本の外側にする

品川エリアといえば、京急と京成が乗り入れした結果、成田空港と羽田空港を一本でつなぐ長大な路線が通っている。空港といえば、国際線に乗るために出国手続きをすると、その先のゾーンは税法上日本でも外国でもない不思議な場所、いわゆる制限区域であるのが一つの特徴。そこには関税や消費税がかからない免税店がたくさんある。

入出国の手続きをする場所を高輪ゲートウェイ駅付近に作り、そこから成田、羽田へ向かうエリアを制限区域という異世界の街にして、国内外からの出店を募るのはどうだろう?免税というだけでなく、国内の一般的な商店の慣習にとらわれず、各国のスタイルで経営され、各国語が飛び交う商店街になれば面白い。

だが問題は、出国し、海外にこれから出る人しか入れないからこそああいう場所が免税になっている事情だ(例えば消費税に関しては、日本国内で消費しないものを売るから免税になるという理屈)。出国して制限区域を楽しみ、またすぐ戻ってくるのは多分ダメなんだろう。海外に行くついでではなくもっと気軽に利用できればなお良いが、その場で消費するしかない「ライブパフォーマンス」「飲食」「(無形の)サービス」などの店に限り出店し、その街に入る場合に限り簡単に出国できるようにするのはどうだろう。難しそうだが面白そうだ。

2)高輪ゲートウェイ周辺をリアル世界の外側にする

AR/VR特区の街をあの辺に作るのはどうだろう。中にいる人はゴーグルなどのAR機器をつけて過ごす。普通の街でそんなことをしたら現時点では危険視されるが、ここではし放題、むしろしなきゃダメだ。同時に24時間いつでもどこからでも、VRを用いてリアルタイムのAR/VR街に行けるようにする。そして実際にAR/VR街にいる人も外からVRで入った人も、互いの姿が好きなアバターとして表示され、リアルにそこにいる人と仮想空間としてそこにいる人とが全く同等に扱われる、そんな街だ。ついでに自動運転車の実験区域やAIに人間同等の権利を認める区域も作ってしまえ。リアル世界とバーチャル世界のゲートウェイ、面白そうだし実現可能性も結構高いのでは。

3)高輪ゲートウェイ周辺を地球の外側にする

国の宇宙開発の施設をあの辺に移設したり、宇宙旅行を手がけようという民間の会社を誘致して、一般公開エリアを広く設ける。

高輪のゲートウェイを抜ければそこは宇宙だった、という夢。ロケットの打ち上げ台を作るなどはさすがに場所柄無理な気がするが、降り立つなり宇宙がリアルに身近に思える街が広がっていれば、ゲートウェイと呼ぶに足る。

4)高輪ゲートウェイ周辺をこの世の外側にする

この門をくぐるもの生きて帰れると思うなかれ。という煉獄を作ろうというのではない。これまでにこの世で消えた全ての命のための死者の世界を作ろうということだ。一般的な墓地やモニュメントなどでは、結局生者の理屈が適応される世界になってしまって異界とは言いがたく、よってそこへの入口もゲートウェイとも言いがたくなる。そうではなく、ただ、かつて生きたものがいるための場所にする。そんなところへ行けば身近に接していたことのある死者を偲ぶ気持ちは生まれるだろうが、生きていた頃の争いやしがらみなどは無意味として、生者の理屈で生前の行いを讃えたり、悪行を咎めたりしてはいけない。人間が万物の霊長という価値観も無効、今まで叩き潰した虫や食べちゃった魚や獣、薬で追い出した菌類の魂も入り乱れての無礼講だが、かつての争いやしがらみも忘れるのがルール、新しい世界が展開されるかもしれない。
このプランが一番具体性に欠けるので実現が難しいのか簡単なのかよくわからないが、あの世実現空間、そしてこの世とあの世のゲートウェイ、面白そうだ。

以上、新駅名炎上騒ぎの中、こんなに真剣にゲートウェイの行く末を考えることになるとは思いもしなかった。でもわりと楽しい遊びであったことをご報告します。

駅名がこのまま決まるのか、品川エリアの開発がどうなるのか、引き続き観察を続けたい。


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