TVアニメ『サザエさん』で猫の**に目覚めた話

「peace, peace」illustration by Ukyo SAITO ©斎藤雨梟

猫への目覚め、覚えていますか

猫というのは齢10年を過ぎると尻尾の先が二つに分かれ、背丈が伸び、人語を解し、魔力を持つなどして「猫又」になるそうですが、猫又にならなくても生まれながらに魔力を持っていることは猫好きならば誰でも知っていることでしょう。

うんうんと頷いた方、ではその猫の魔力にいつ最初に気づきましたか?

子供の頃から身近に猫がいたという人ならば目覚めは早かったことと思います。私は残念ながら猫のいない環境で育ったため、「猫の魔力」への目覚めは、リアル猫ではなく映像でした。

(猫が好きではないという方は、何か別の好きなものへの目覚めを思い出してみてください。案外きっかけは映像だったりしないでしょうか)

国民的アニメの初期版がすごい

さて、現代日本における「国民的アニメ」というと、猫型のアレとか女子小学生のあの子とかいくつか浮かぶものの、最長寿はやっぱり、長谷川町子原作『サザエさん』ではないでしょうか。

貴重な1969年の初回放送映像(「75点の天才!」「押し売りよこんにちは!!」「お父さんはノイローゼ」の三本)が、amazon prime video にあったので見てみたのですが、私の知っているテレビアニメ版サザエさんとは全然違ってビックリしました。絵柄は原作漫画のテイストに非常に近く、内容もピリリと毒気のあるものですが、それだけではなく、その後の『サザエさん』からは消えたと思われる「アニメ的表現」が満載なのです。

例えば、速く走っていることの表現として、足の部分をぐるぐる回る渦巻きに描くだとか、カツオが飛び上がって天井を突き破るとか。

他にも、0点のテストの答案を持って逃げるワカメを捕まえようと、カツオが電気コードを投げ縄にするとか、猫のタマがナイフとフォークを持ってネズミを追いかけるとか、あの温和なフネさんまでハサミを持って波平を追いかけ、大事な頭頂部の毛を切ろうとするとか、ことごとく凄いのです。

その後のサザエでございます

私の記憶にある『サザエさん』は既に、子供の目にもありえないほど平和なホームドラマでした。正直に言って、あまり面白いとも思わず見ていました。病院の待合室で初めて原作漫画を読み、こんなに面白いのか、と驚いたのを覚えていますが、TVアニメ版はそれくらい刺激を抜かれて「家族仕様」になっていて、もはや別の毒成分を感じるほどの仕上がりです。

しかしそんなアニメ『サザエさん』にも、刺激的な部分はありました。それが、オープニングテーマの最後の方にある「果物が上下にパカっと割れて登場キャラクターが出てくる」シーンです。(※どの期間に放映されたバージョンにこのシーンがあったのかは未確認ですが、かなり長くあったものと記憶しています)

大きなリンゴが割れると中からサザエさん一家が出てきて踊り出し、隣にあった小さなみかんが割れると中から猫のタマが出てきて踊り出すシーン。やっと今日の本題、猫の話です。

↓これです、これ、!!↓

果物はいつもみかんではなく、季節で変わった気がしますが、 それはこの際どうでもいい。みかんの上部を花笠みたいに持って腰を振って踊るタマのお腹に私の目は釘付けでした。

とにかく凄い!くねくね踊るタマのお腹がすごい!

これはものすごくやばいものを見せらているのではないか?いいのかこんなのをテレビで流して!?というくらいの背徳感で見ていた記憶があります。

夏バージョンではサザエさん一家の若い衆も半裸(水着)で腰を振って踊っていましたが、そんなのは目じゃないほどタマのお腹はやばかったです。

思えばあれが、猫の魔力への目覚めでした。

うちの宇宙一の美女(注:猫)は割と何をしても怒らない気さくな性格ですが、お腹にはあまり触らせてくれません。でもあれほどの魔力を持つ部位ですから、「そりゃあしょうがないよな」と納得しています。たまにお腹に顔を埋めさせてくれる猫がいると聞くと、「い、いいのか……!?」と興奮して変な汗が出てきます。毎日変な汗が出ては体に悪そうなので、やっぱりこれでいいのだ、と思います。

ほのぼのホラー、サザエさん

TVアニメ『サザエさん』のタマといえば、エンディングの「声の出演」の欄に「?」と記してあったのもひどくミステリアスでした。

テレビのない生活に入って長いので最近は見ていませんが、その後どうなっているのでしょう?

ちなみに2013年に発売されたこちらのCDは、果物から一家が出てきて踊る例のオープニングテーマはもちろん、いろいろな音源が収録されていて、「タマの声」も入っているようです。リンク先のAmazon販売ページではかなりたっぷり試聴でき、「ああ、あったなこういう音楽」と懐かしくなります。(残念ながらタマの声は試聴できず)

放送開始の1969年当時、どうだったのかはわかりませんが、その後かなりの長い間、TVアニメ『サザエさん』は、「もう日本からは失われた古き良き家族」として描かれてきた感があります。

しかし何でもかんでも「ほのぼの」でおさめてしまえという様式は、それほど穏当なものではなく、初期バージョンの凄さとは別の意味で「それでいいのか!?」とドキドキしたりモヤモヤしたりすることもあり、それがTVアニメ版の「味」なのかと思います。もともと伝統的家族を保存しようという意図などない作品(多分)を原作としている無理というものでしょうか。

言わずもがなのサザエの変な髪型とか、女子小学生のワカメのヘアスタイル(刈り上げ)とファッション(パンツ見えてる)はかなりとんがっているとか、ここまでおしゃれロゴじゃなく名前のイニシャルだろうなと納得させる英文字はあまり見ないカツオの「K」セーターとか(最近ホリエモンこと堀江貴文さんが「H」と書いたセーターかトレーナーを着ている写真を見て、カツオの「K」セーターの正しい継承者を見つけた!と軽く興奮した)、通勤時はスーツに帽子・家では和服の波平はかなりの洒落者、池波正太郎かよ!くらいに見えるとか、見た目だけでも相当な違和感を振りまいているのに、「サザエさん的世界ではこれがよくいる普通の家族」とおさめてしまう乱暴さが、話の内容にもまたあります。

「ほのぼの」「家族って素晴らしい」の範疇に入るんだろうか?と疑問に思う不条理なエピソードもよくあり、一人暮らしだった頃など、見た後にブルブルしながら「あ〜よかった独り者で」としみじみしたことも一度や二度ではありません。ある種のホラーです。それでも私に猫腹の魔力を教えたTVアニメ版『サザエさん』に対してはなんだかんだリスペクトする気持が強く、どうせならば「言ってることが同じ日本語とは思えない」ほど時代と乖離するまで続いて欲しいなあと思います。だんだん「過去へタイムスリップ・ハードSFホラー」みたいに、意味合いが変わってくるのではないでしょうか。あと10年経っても続いていたらテレビ購入を検討したい。

猫の話のはずがよくわからなくなりましたが、これくらい長期に渡って人に影響を与えるテレビアニメ、定点観測のためにも長く続けて欲しいなあということです。原作寄りに話を戻し、長谷川町子作・自伝的漫画「サザエさんうちあけ話」、これは名著!

というわけで今回はこれにて。


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