将棋ストーリー「王の腹から銀を打て」第13回

青葉小+1は二回戦に進出した。二回戦は準決勝でもある。
今度の相手「と金倶楽部チーム」は見るからに強そうだった。将棋の強さは顔ではわからないが、態度ではある程度わかる。強い者は自信があるから、あがっておどおどしたりしない。
また、対局が始まってしまえば、手つきでもわかる。指しなれた者は手つきがキマっている。ピシッといい音でコマを打つ。

中堅のトモアキの相手はメガネをかけた太めの男の子だった。一回戦で黒星をきっしているトモアキは気合いが入っていた。二度続けて負けるわけにはいかない。
しかし気負いすぎたか、いきなりミスが出た。香で飛車を殺されるのをうっかりしたのだ。序盤から不利になってしまった。しかたない。トモアキは守りを固め、反撃のチャンスをねらうことにした。

予想通り、と金倶楽部は強く、アサ子とトオルがあっさり負けた。トモアキはマズい!と思ったが、考えてみればもともとトモアキからの三人で勝つ予定なのだ。まだまだこれから、と思い直した。
がんばっているうちにトモアキの将棋は少しずつ盛り返してきて、取られていた飛車も取りかえした。ところが、よーし、と思ったとたん、とんでもないことが起きた。
ジュンが負けたのだ。あっけなかった。これでチームの負けが確定した。もうトモアキとカズオが勝っても決勝には進めないのだ。
それでがっかりしたのかもしれない、カズオまで負けてしまった。
がっかりしたのはトモアキも同じで、勝つ気力もうすれかけたが、カズオが負けたのを見て、また気持ちが変わった。
こうなると一つくらい勝っておきたい。全敗じゃあんまりみっともない。トモアキはもう一度気力をふるい起こした。

相手は赤い顔でしきりにメガネに手をやる。優勢だった将棋を追い上げられて、あせっているようだ。
いよいよ終盤も大詰め。トモアキの王も危ないが、守ってばかりいては勝てない。敵の守りをくずすため、銀取りに歩を打った。
そのときだった。すかさず相手が言った。
「二歩!」
あっと思ったがもうおそい。目の前が真暗になった。確かに同じスジにもう一枚歩がある。二歩は禁じ手で反則負けだ。試合で「待った」がきかないことくらいトモアキだって知っている。

――――続く

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