食事のあと、けっこう時間があった。
「なあ、おれたち、うわさされてたぞ」
トイレからもどったトモアキが、くすぐったそうな顔で言った。
青葉小+1は強い、優勝候補だ、と話してる子たちがいたらしい。
「あらあら、期待をうらぎっちゃ悪いわね」
アサ子が軽口をたたくと、
「優勝することにしようか?」
珍しくカズオまで調子に乗る。
リラックスムードだ。
そうこうするうちに、準決勝開始の一時が近づいた。
「なんだ、ありゃ」
はり出された準決勝のメンバー表を見てトモアキが声を上げた。
「どうしたの?」
なにかと思ったほかのメンバーにも、トモアキの言う意味はすぐわかった。相手の王将ジュニアチームのメンバーが入れ替わっている。一、二回戦で大将をつとめた子が中堅にいる。副将だった子は次鋒だ。
「ははあ、当て馬か」
シュウイチが言った。
「カントク、当て馬って?」
「団体戦の作戦の一つさ。相手チームにいやに強いのがいるときは、どうせ負けるからそいつには味方のいちばん弱いのを当てておく。そのぶんほかの試合を勝てば全体では勝利できるって寸法だ」
つまり王将ジュニアは大将戦と副将戦は捨てて、中堅以下の三人で三連勝をねらっているのだ。
「まずいよ、これは」
「そうね。強い相手は新庄くんと林にまかせとこうと思ってたのに、これじゃわたしや小松が強敵とあたっちゃう」
「きったねえ。ひきょうものめ」
「別にきたなくはないんだ。メンバーの順番を入れ替えるなってルールはないんだから。大学生の大会でもあることだよ」
「そうか、野球だって試合ごとに打順変えてもいいもんな」
「でもどうしよう?」
リラックスムードは吹き飛んだ。
――――続く
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