「新庄くん、お兄さんと歳はなれてるんだね」
シュウイチが一階に下りたとき、アサ子が意外そうに言った。
「うん、説明すると長いんだけど――、つまりうちの両親は再婚で、お父さんの連れ子が兄さんで、お母さんの連れ子がぼくなんだ。あれ? ぜんぜん長くなかったか」
カズオは頭をかいた。
シュウイチの部屋は広めの洋間だった。本だなには将棋の本や雑誌がたくさん並んでいる。カーペットの上に足つき盤が一面、低いテーブルに卓上盤が二面、合計三面の将棋盤が用意してあった。
「カズオから話は聞いてるよ。将棋が強くなりたいんだね。それはそんなに難しいことじゃない。きちんと勉強すれば必ず強くなれる。ただ問題なのは半年しかないってことだ」
カズオの兄、新庄シュウイチは言葉を切ってみんなの顔を見た。
「将棋はゲームの王様と言われるくらい奥の深いゲームだからね。かんたんに強くなれる方法なんてない。半年で大会を勝ち抜けるほどの力をつけようと思うならかなり真剣にやってもらわなきゃ」
とりあえず力を見せてもらおうと言われて、さっそく将棋を指すことになった。トモアキはカズオと、アサ子はトオルと対戦した。シュウイチは横でだまって見ている。テストを受けるみたいでちょっと緊張する。終わるとシュウイチはにっこりした。
「うん、いくらか安心したよ。みんなコマの動かし方はわかってるみたいだ。それからもう一つ、待ったをしなかったね。これはすごく大事なことだ」
カズオ以外の三人はどきっとした。実は三人とも待ったをしたいところが何回かあったのだ。ふだんならしてたかもしれない。シュウイチに見られているからがまんしたのだ。
「なんで待ったをしちゃいけないかわかるかい?」
ルール違反だから、とか、待ったしてちゃ強くならないから、とかトモアキたちは答えたが、シュウイチはこう言った。
「うん、そういうこともあるね。でも一番の理由は楽しく将棋を指すためさ。待ったを許してたらきりがない。そっちが変えるならぼくも変えるよ、となる。おまえ待ったが多いぞ、おまえこそ、となる。あげくの果てはたいていケンカだ。だから楽しく将棋を指すためには、ぜったい待ったはしちゃいけないんだ」
――――続く
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