【 時間どろぼう魔談 】モモ(14)

【 第14章 】食べものはたっぷり、話はちょっぴり

なかなか思わせぶりな章タイトルである。食べものはたっぷり。とても素敵なことのように一見思えるのだが、じつはそうでもない。話はちょっぴり。なにか隠し事でもある人物が登場するのかと思いきや、もっとダイレクトな話である。
この章は「モモが1年間不在にしている間に、ニノがどうなってしまったか」という話なのだ。ニノは魔談の「モモ(7)」に出てくる。その部分を引用してみよう。

(モモの訪問先2)居酒屋のニノと、ふとっちょのおかみさん
・毎晩、安酒一杯だけで店に居座る老人たちに「他の酒場を探してくれ」と追い出したニノ。そのことに怒りまくるおかみさん。
「時代が変わった。家賃が上がった。物価もあがった。いままでの経営じゃ店がもたない」とわめくニノ。
「もうこんな思いやりのない店はごめんだよ」と言い捨てて出ていったおかみさん。
・夫婦でモモのところに来たニノとおかみさん。ニノは老人たちの家をひとりひとり回って「また来てくれ」と頼んで歩いたのだ。顔をかがやかせてその話をするおかみさん。

……というわけで、太っちょのおかみさんと居酒屋をしていた人である。灰色の男たちのワナにかかってしまいそうになったのだが、おかみさんのおかげでなんとか回避できたのだ。

その居酒屋がどうなったのか。腹を空かせたモモが訪ねて行くと、なんとその一角は全部コンクリートの四角い建物に変貌しており、道路に面した壁は全て「ばかでかい窓」(原作)となっている。大きな文字の派手な看板もかかっている。
「ファストフード レストラン・ニノ」

この看板文字「ファストフード レストラン・ニノ」を見た瞬間に「うわっ」と思ったのは私だけではあるまい。現在の我々があまりにも見慣れた「街のファストフード店」光景。その様子が「ニノの変わり果てた(哀れな)顛末」「ついに灰色の男たちの術策にかかってしまったニノの現状」として細かく描写されている。思わず苦笑してしまうような話だ。

モモにとってはまさに異世界。とまどいながらも、そこで右往左往している人々を(驚きの目で)観察する。客たちはトレーを手にして一列に並び、ガラスのショーケースから好きな料理やドリンクやスイーツを選び、最後にレジに進む。そのシステムをようやく理解するモモ。

目指すニノがレジにいるのをようやく発見し、モモは大声で彼の名前を呼んで駆け寄ろうとする。しかしそこまでたどりつくには金属パイプの柵が邪魔をしている上に、客の列がずらっと続いている。ようやくニノに近づいたはいいが、並んでいる客たちからたちまち怒号の苦情。モモはろくに質問もできない。客からゴウゴウと噴出する苦情内容はここでは割愛するが、その苦情がまたじつに「ごもっとも」なのだ。「良識ある大人の苦情」としか言いようがないような立派な苦情なのだ。

「その子もみんなと同じに、後ろに並ぶんだ。勝手に前に出るなんて、だめじゃないか!」(原作)

ニノはモモを見て喜ぶが、店長である彼は客の苦情をほっておくわけにはいかない。「列に並んでくれ」とモモに懇願し、モモはやむなくそれに従う。料理やドリンクを選んで並び、ようやくレジまで来た時にニノと話をしようとするのだが、ニノに聞きたいことを話し始めた途端に、またもや客からゴウゴウたる苦情。聞きたいこともろくに聞けないモモ。読者も思わずイライラが募ってくるようなシーンだ。

結局モモは列に3回並ぶ。3回とも消化不良のような会話しかできず、3回目の食事は、
「まるでボール紙か、かんなくずでも食べているようで、のみくだすのはなみたいていではありません」(原作)

無言で店を出るモモ。空腹は満たされたものの、悲しい思いで胸が張り裂けそうだったにちがいない。

【 つづく 】


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