魔のオブザーバー(3)

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前回の続きでパーカー談。
パーカーという名称でまず浮かぶのはぼくの場合、万年筆ではない。ペネロープ号運転手である。冒頭からいきなりの雑談で恐縮だが、そもそも「笑える魔談」というのは「笑えねえ魔談」に比べて余談魔談みたいなものなので、どうかお許し願いたい。

さてペネロープ号とはなにか。ぼくの世代、つまりアラウンド60の日本男子で「サンダーバード」を知らない男はまずいないだろう。いま「ホテル暴風雨・BFUギャラリー企画展」で個展開催中のナカライカオル画伯も「サンダーバード」には相当にまいっちゃってたハズである。「アラウンド60・プログレ&ブリティッシュロック愛好・特撮映画大好き」と3拍子揃った男が「サンダーバード」を知らないはずはないのある。

冗談はさておき、この特撮満載人形劇に、ピンク色の超豪華特別仕様6輪ロールスロイス(しかも兵器装備)が出てくる。なんで車輪が6個なのかその点がいまだに謎だが、とにかくこれ見よがしの車を運転していたのが、パーカーだった。この男は「英国の上流階級の屋敷にのみ生存する忠実この上ない執事」といった感じで、運転しない時は蝶ネクタイをピシッと締め、運転する時は運転手専用の制服を着用していた。「サンダーバード」登場のどのキャラよりも、ぼくはこの男が好きだった。……で、後部シートにふんぞりかえっているお嬢がペネロープで、このお嬢のふてぶてしさがまたじつによかった。お高く止まっちゃってる声が約50年前の黒柳徹子で、これがまたぴったりだった。

たとえばこんなシーンが思い出される。
6個の車輪を「ガーッ」と回転させてペネロープ号が疾走している。すると上空に悪いヤツラの武装ヘリがいきなり現れて、ガガガガガッと機関砲をぶっぱなしてきたりする。まさに問答無用。悪いヤツラがなにゆえにそんなに怒りまくっているのかよくわからないが、とにかく彼らは「悪いヤツラ」なので「サンダーバード」関係者が憎いのだ。
パーカーは機関砲を避けて右に左にすばらしいハンドルさばきをいかんなく見せ、落ち着きはらって言うには「お嬢様、ちとうるさいハエが上空におるようですが……」
このあたりにもう小学生のぼくはしびれちゃったものである。後部シートのお嬢もまた当然ながら心憎いほど落ち着きはらっている。長いキセルのような棒状パイプからスーッと煙を出しつつ言う。「やっておしまい」。……これは漢字を当てはめるとまちがいなく「殺っておしまい」になると思われる。まさに「魔のお嬢」である。

パーカーは眉毛ひとつ動かさず(人形なんだから当然だろ、などと思ってはいけない。パーカーのぶっとい眉毛はちゃんと動く)、「はい、お嬢様」。
するとペネロープ号の後部ナンバープレートのあたりがにわかにメカニックに変形し、「こんなもの一体どこに収容されていたんだ」と思うような小型対空ミサイルがズバンッと発射される。当然ながらこれは見事に一撃で武装ヘリを撃墜し、ヘリは地上で大爆発する。
驚いたことに武装ヘリの悪いヤツラは全員無事で、額に黒いオイルのようなものをちょっとくっつけた程度の元気な姿で「クソウッ!いまに見ておれっ」などと毒づくのだ。

「サンダーバード」で死人が出た記憶は全くない。救助にあたり必ず大問題が発生し、大爆発が起こり、しかし全員が必ず救助される。決してバカにしてこういう表現をしているのではない。ぼくはいまでも心からこの特撮満載人形劇を愛している。

……なに?……CG版「サンダーバード」だと?……そんなモノはキミ、日本家屋をプラスチックで作るようなものだよ。まあ住めないことはない。しかし木の方がいいに決まってる。

・・・・・・・・・・・・・・・・…( つづく )
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