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ダザイとミシマ。じつに対照的なふたりだと思っていたが、彼らには意外な共通点があった。ふたりとも姉と妹にはさまれたサンドイッチ息子だったのだ。
サンドイッチ息子。このネーミングはその場でぼくが勝手に考案した。なんとなくイヤそうなふたりを前にして、ひとりで大ウケだった。
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その夜、我々3人はじつによく語り、よく笑った。息がつまるような雰囲気を作る助教授が、とにもかくにも現場にいないという解放感。これが我々を一気に明るくした。今夜は現場から車で半時間ほどのビジネスホテルに泊まるという話だった。なんにしても今夜は事務所にいない。現場にいるのは我々出稼ぎ組だけなのだ。
「事務所の管理体制としてこれはどうなのか?」
じつにまっとうな疑問がダザイから出たが、ミシマとぼくは笑ってその問題を棚上げにした。そんなことはもうどうでもよかった。ここには風呂もシャワーもテレビもなかったが、折りたたみ式の簡易ベッドがあり、駅弁と酒があった。それで十分だった。晩飯が駅弁というのにはちょっと驚いたが、夕方にパートのおばさんが3人分の駅弁を届けてくれたのだ。
酒はもちろん自前である。3人ともそれぞれ勝手に自前で酒を持参していた、という点も大ウケだった。ダザイは生意気にも赤ワインのボトルを出してきた。
「地学部とワインはどうつながる?」
ぼくが聞いて爆笑となった。
「ぶどうの栽培こそは、土壌を選ぶ知識から始まる」
怪しげな返答が即座に返ってきて感心した。
「こはいかに!」ぼくは叫んだ。「……かかるようやは、ある」
実際は弟の出稼ぎを心配した姉が「辛いことがあっても、これを飲んでぐっすり寝なさい」と言って持たせてくれたというまことに泣ける話だった。
「そのお姉ちゃんは美人か?……彼氏はいるのか?」
即座に質問するミシマに爆笑だった。
そのミシマは「どこの山に登るつもりだ」と言いたくなるようなでかい70リットルザックから、なんと「ジョニ赤」を出した。ジョニーウォーカーのレッドラベル。なかなかの高級酒だ。その700ccボトルをゴロンと出してきたので驚いた。
「こっちのお姉ちゃんは英国びいきか?」
ぼくがからかうと、ミシマは大真面目な顔つきで言った。
「出張中のオヤジの飾り棚からかっぱらって来た」
これまた爆笑だった。かく言うぼくはアーリータイムズの200ccボトル。じつは大学生時代にバーボンを知ってしまい、山に登るか出稼ぎバイトと言えば、アーリータイムズの200ccボトルが必須アイテムだった。
酒飲みという人種は「アルコールさえ含んでおればなんでもよい」などと言いつつ、すぐとなりの人間が気分よく飲んでいる酒の種類を妙に気にするようなところがある。まして大学生。味などよくわかっておらず、若気の至りでなんでもかでも痛飲しているような時代だ。当然ながら回し飲み状態となり、ワインを飲んでジョニ赤を飲んでアーリータイムズを飲んで、助教授の悪口をたたいて大声で笑って……などとやっているあいだに、3人とも泥酔状態で眠ってしまった。そのまま朝となり冴えない顔でゾロゾロと起きだして……といったなりゆきになるはずだった。ところが真夜中に肩を叩かれた。
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真っ暗な上に、事務所の周囲には人家の灯りもまったくないという僻地だ。ぼくはなにかドロドロとした一種異様な夢の中にいたが、肩をトンとたたかれて夢から醒めた。しかしすぐには現実世界に戻ることができず、ここがどこなのか理解できなかった。2秒間ほど唖然とした面持ちで暗闇を眺め、ようやく現実世界の状況を思い出した。しかし室内の構造がさっぱり分からず、電気スタンドの場所さえわからない。目をこすり、自分の吐く息に酒くささを感じ、髪を無意味にかきあげながら「なに?」と聞いた。返答はなかった。
返事がないことに少しイラッとしたが、ともかくゆっくりと上体を起こしてベッドに座った。「まずいな」と思った。二日酔い一歩手前といった気分だった。朝になって助教授に知れたら、さらに重労働が追加されそうだ。「なんだか刑務所みたいな話だな」と思い、それがおかしかった。
座った段階で、もう一度聞いてみた。「おい、なんだよ?」
返事はなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・…( つづく )