【 干支魔談 】魔のイノシシ(2/最終回)

前回は「もののけ姫」冒頭で村を襲撃する怪物のシーンを語った。見張りの老人が恐怖と共に発した言葉「タタリ神だっ!」から「タタリ」について話を進めた。この直後、アシタカの行動を見て老人はこのように叫んでいる。
「アシタカ!タタリ神に手を出すなっ!のろいをもらうぞっ!」
今回はこのセリフに注目したい。このセリフこそが、「もののけ姫」世界がここから一気に展開してゆく扉のように思うからだ。

よく言われることだが、偉大な物語は冒頭シーンの見せ方がすばらしい。始まるやいなや見事にその世界観を示し、その世界で繰り広げられようとしている物語のビッグバンとも言える核を見せて、観る者(読む者)の心をぐいぐいとその世界にひっぱりこむ。「もののけ姫」ではそこにドロドロのおぞましい怪物の出現・襲撃という「戦慄」の味つけまでしている。「さすがは」というほかない。

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さてこのセリフ、老人が叫んだ忠告にじつに興味深い言葉が含まれている。注目したいのは、この短いセリフの中に「タタリ」と「のろい」が同居していることである。老人の心配はそのまま的中する。タタリ神と知りつつ暴走を見かねたアシタカは、ついに矢を向ける。怪物の目を射抜くことで見事に倒す。しかしのろいをもらってしまう。彼は「のろいを受けた身」となり、村を追われる展開となってゆく。

荒ぶるタタリ神は天災と同じである。相手構わず問答無用にたたる行動に盲目的に邁進している。それが「タタリ」である。ではなぜここであえて「のろい」という言葉が出てくるのか。このふたつの言葉の違いはなにか。
この違いを探るべく色々と調べてみた。結論としては、どうもよくわからない。しかし調査を進めるうちに、なんとなくじわっとわかってくるニュアンスの違いがある。古来から受け継がれてきた日本独自の因習的な言葉、特に神や信仰や宗教に関する言葉には、そうした曖昧模糊な意味あいのものが多い。「どうもよくわからんな」と思いつつ、それでも辛抱強く調べていくと、やがてじわっとわかってくる。そういうニュアンスの言葉が多いように思う。

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話を戻そう。「もののけ姫」の冒頭シーン。荒ぶるタタリ神が怒っている理由は、はっきりしない。それは「なにか人間がしでかした行動や事件」なのかもしれず、あるいは「人間の存在そのもの」かもしれない。なにはともあれ手を出さず、そのまま静まるのを待ち、その後に「はて、なににお怒りであったのか?」とか「はて、どの神がお怒りであったのか?」を占う。それが判明した時点で「わたくしどもが悪うございました」とひたすらに平身低頭であやまり、「以後はもうこのようなことはありません」と反省の態度を見せつつ、じつは封印してしまう。これが日本の古来からのやりかたである。神社のそもそもの存在理由もそこにあると言われている。

しかしアシタカは反撃した。その結果、「ただ怒りにまかせて暴れていたタタリ神」は、その怒りや憎しみをアシタカに集中させる結果となった。その瞬間、「タタリ」は「のろい」という形に凝縮して放たれ、アシタカの腕にからみついたのだ。
またこうも考えることができる。タタリ神の出現は、突然の降ってわいた天災と同じで、予想できない。しかしタタリ神に反撃すると「のろいをもらってしまうぞっ!」と老人は忠告している。つまり予想できない「タタリ」と予想できた「のろい」。ここが違うのかもしれない。

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以上、「タタリ」と「のろい」の違いにつき、新年早々「縁起でもない話」を長々と述べてきたこと、どうかご容赦ありたい。
今年の干支はイノシシ。イノシシが颯爽と駆け抜けるような良い1年になるだろうか。そうは思えない。「トンコレラタタリ神」に変貌する可能性が強い。
今年は平成が終わりを告げる年。次の新元号時代は日本人がさらに発展する良い時代となるだろうか。そうは思えない。迫り来る大地震・大噴火の予兆。次の新元号時代は日本人がかつてない規模の「大天災タタリ神」で大量に死ぬ時代となる可能性が強い。
今年は東京オリンピック開催前年。その恩恵で日本経済は好転するだろうか。そうは思えない。従来の日本が繰り返してきた「東京のみの一極集中」がまたもや繰り返され、その恩恵に預かれない地方がさらに深刻な代償を支払わされる「格差社会タタリ神」の可能性が強い。

今こそ我々日本人は「とんでもない時代の日本人に生まれてしまった」という運の悪さ(笑)を自覚しようではないか。天災であれ人災であれ「最悪時代の日本人として生まれてしまったのだから、これはむしろ除幕。まだまだ」と開き直るたくましい精神を持とうではないか。
筆者はそんなふうに考えており、今年も最悪時代の日本人として「魔の日本人」をやっていきたいと思っている。

……………………………………    【 完 】

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