【 魔の種 】(短編魔談 15)

【 魔 の 種 】

「魔の種」といえば、あなたはどんな種を連想するだろうか。この場合の「種」は「話の種」など比喩的な表現で使われる「種」ではなく、ストレートに「植物の種」としたい。
「植物関連の魔なら……」ということで私のような男は即座にヴォイニッチ写本を連想する。期待しつつ書棚からその本を出してきて「奇怪な形状の種とかなかったか」と探してみる。
残念ながら奇怪な花や球根のようなものはゴロゴロとあるが、種らしきものはない。

ちなみに「ヴォイニッチ写本?」と思われたかたは、2018年12月7日から4回にわたり熱く語っている魔談「魔の本/ヴォイニッチ写本」をぜひ御覧ありたい。これほど謎に満ちた奇妙な本はない。
しかしつい最近読んだサイエンス関連の記事で笑ったのは「大した内容の文章ではないと思われる」と書いてあったことだ。なぜか。意味は不明だが、同じ単語がくどいぐらいに何度も繰り返し書かれているからだという。例えていえば「NICE!NICE!NICE!」「すげー、すげー、すげー」ということらしい。これには失望しつつ笑ってしまったが、しかしまだまだ解明できない奇怪な挿絵や文字列は山ほどあり、今後の解読に期待したい。

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さて話を戻そう。
じつは「魔の種」を特定するヒントはこの3文字の中に隠されている。そう、「麻」である。
これまた以前の話題で恐縮だが、2016年4月1日、私は「魔談」を開始した。その「まえがき」で「魔」という漢字について語っている。以下に引用したい。

かように数の多い漢字の中でも、ひときわ異彩を放ち燦然と輝いている漢字があります。それが「魔」です。私はそのキラメキをこよなく愛する者です。これほど魅力のある漢字は、他にちょっとない。そう思っているぐらいです。
この漢字をちょっと分析的に見ましょうか。上に乗っかっている部首「广」は「まだれ」といいます。これはなにを意味するのか。「崖面を利用した家」あるいは「崖っぷちの家」らしいです。なにやら不穏ですね。またこの漢字は「鬼の上に麻」という解釈もできます。この場合の「麻」はなにを意味するのか。「人をしびれさせる・麻痺させる」意から転じて「正気でなくさせる・狂気に走らせる」という意味なんですね。

というわけで麻薬という言葉を持ち出すまでもなく、麻はやばい植物なんである。
その「魔の種」が、遺跡の発掘現場から出てきた。これが考古学者の間で話題になっている。

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【 卑 弥 呼 の 家 】

纒向(マキムク)遺跡

御存知だろうか。画数の多い複雑な漢字なんで、この魔談では以後「マキムク遺跡」と書いて紹介したい。
桜井市(奈良県)にあるマキムク遺跡は「邪馬台国はどこにあったか」あるいは「卑弥呼はどこにいたか」という論争で有名な遺跡である。九州説と近畿説が大いに対立して論争している。その近畿説で最も有力視されているのがマキムク遺跡だ。

なにしろ卑弥呼が生きていた時代というのは「生まれた年は不明」→「死んだ年は245年頃」ということで、1775年ほど昔の話である。
「そんな昔のことなどわかるはずがなかろう」というのが私のような素人の考えだ。しかし桜井市在住の友人(中学校教師)は熱心な「卑弥呼近畿説」信奉者で、本人的にはこの「近畿説」という呼称にも大いに不満があるらしく「卑弥呼奈良説」と自称して活動している。

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さて2009年、このマキムク遺跡の発掘で「ここには巨大な建物が立っていたらしい」と推測できる手がかりが発見された。なにしろ柱が20本も立っていた高床式の建物であり、内部には60畳もある広い空間を備えていたらしい。しかも建っていたのは3世紀前半で、卑弥呼が活動していた時代と一致する。さらにその当時、それほど巨大な建物は日本では他に例がない。
……とくればこれはもう「ここは卑弥呼の家かも!」という期待になる。それはイコール「やっぱ邪馬台国の都はここだった!」という期待大になる。友人をはじめ「卑弥呼近畿説」信奉者たちが一斉に色めき立ったのも無理はない。

面白いことに、その遺跡からゴロゴロと出てきたのが桃の種なのだ。友人の話ではなんと3000個ほど出てきたらしい。なんでそんなにたくさんの桃の種があるのか。卑弥呼は死ぬほど桃が好きだったのか。どうもそうではないようだ。種を分析して調べてみたところ、まだ熟してない青い桃の種も多数あったらしい。
「食用ではなく祭礼用かも。お供え物なんじゃないか」
学者たちはそう推測している。中国でその例があるらしい。中国の神仙思想では、桃は「不老不死を招く果実」とされている。

その桃の種と一緒に出てきたのが「麻の種」だった。
これをどう使ったのか。「祭礼時に燃やしたのではないか」と学者たちは推測している。
燃やすとどうなるのか。
「実際にやってみたことはないのだが」と友人は前置きするのだが、実際はやってみたくてしようがないのだろう。
「たぶん煙を吸うと、麻薬効果が出る。高揚感とか、幻覚とか、ラリってしまうとか」
なるほどそんなことをしたら、いかに「考古学検証で」などと言ったところで中学校教員はアウトだろう。

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(余談1)
友人および考古学者たちの説では「日本では、古来から大麻を麻薬目的で栽培したり使ったりすることはなかった」というのが通説らしい。卑弥呼だけが例外だったというのだ。では卑弥呼はどうしてそれを知ったのだろう。まだまだ謎多き女のようである。

(余談2)
中国の「魏志倭人伝」によれば「卑弥呼は鬼道を使って人心を掌握」とある。「鬼道」とはなにか。諸説あるらしいのだが、一種の呪術らしい。私としては卑弥呼話題で「鬼」も「麻」も出てくるのがじつに興味深い。まさに卑弥呼こそ日本における初代「魔の女」かもしれない。

…………………………………   * 魔の種・完 *

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