【 魔の衝突 】(短編魔談 14)

【 ホラー映画受難の時代 】

「魔の衝突」といえば、あなたはどんな衝突を連想するだろうか。あなたが運転する車が他の車や通行人と接触しそうになって、ヒヤッとした瞬間だろうか。

確かにずいぶん長い間、自動車は人間を殺しまくってきた。しかしSONYが電気自動車を展示し、「Appleが電気自動車に参入してくるのは時間の問題」と言われている現代では、これから先、センサーの飛躍的な進化により自動車が人間を殺す数値はどんどん減少してくるだろう。もう50年もたったら「……えっ、人間が車を操作していた時代があったの?……そりゃ毎日事故多発だっただろうねぇ」という会話になるだろう。もはや「魔」が入りこむ余地はないように思われる。

やはり「魔」を冠するような衝突とは、ホラー映画の前宣伝ではないが「全人類震撼」でなければならない。しかし新型コロナウィルスがすでに全人類を毎日のように震撼させてしまっている現代では、恐怖が売りのホラー映画もイマイチ冴えない。ホラー映画もまた受難の時代であるように思われる。

「カタルシス」という言葉を御存知だろうか。ギリシア語である。たとえば映画を観る。その世界に没頭し、主人公に感情移入し、笑ったり、緊張したり、涙を流したりすることで「日常生活で抑圧されている感情」が一気に解放され、快感を得て満足する。そういうのをカタルシスという。現代は「ボヘミアン・ラプソディー」のような映画に人々が惹かれる時代かもしれない。思いきり三密を楽しんで熱狂できるからだ。

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【 小惑星ベンヌ 】

さて本題。
昨今は世界中が震撼であふれており、もはやどのような震撼も新型コロナウィルスには勝てない時代だ。しかし「近い将来、コイツならもしかして(新型コロナウィルス以上に)全人類震撼の存在となるかも」と大いに期待させるものがある。

地球近傍小惑星ベンヌ

御存知だろうか。「地球近傍小惑星」とは、地球に接近する軌道を持つ小惑星のことをいう。NASAはおそらく興味、恐怖、様々な感情が入り混じった複雑な心境で、この小惑星に注目している。いや注目しているだけでなく、すでに探査機を打ち上げ、ベンヌに接近させ、2020年10月20日にこの小惑星から岩石や砂などを採取した。それはまだ地球に戻っていない。2023年に戻ってくる。

ここまで読んだ時点で「なんだ〈はやぶさ〉みたいな話だな」と思われた人も多いと思う。
そう、アメリカが打ち上げた探査機オサイリス・レックスはまさに「アメリカ版はやぶさ」と言える。アメリカは日本の「はやぶさ」に負けじと探査機を打ち上げたのだろうか。なんにせよ負け嫌いのアメリカである。映画も宇宙進出も軍事力もハンバーガーショップ店数も、なにがなんでも圧倒的に世界一でないと気が済まない国だ。「負けてなるものか」精神は絶対にあっただろう。

しかし「日本がターゲットにした小惑星リュウグウ」と「アメリカがターゲットにした小惑星ベンヌ」には決定的な違いがある。ベンヌはなんと地球に衝突する可能性が高いというのだ。2169〜2199年の間にベンヌは8回、地球に接近する。そのどれかで地球衝突の可能性が大きいらしい。
もし衝突したらどうなるか。これはもう地球に残っていたら絶滅である。まさに映画「アルマゲドン」を彷彿とさせる話だ。恐竜絶滅の原因も(諸説あるが)隕石衝突がその最大の原因だと言われている。

さてそこでベンヌは本当に地球に衝突するのか。その計算をさらに緻密にするためには「この小惑星の構成物質はなにか」という調査がどうしても必要になってくる。そこで「探査機の打ち上げ」とこうなる。このあたり、まさに「アメリカが世界を救う!」というアメリカ人好みの展開と言える。

現時点の計算では「早ければ2175年に衝突」と言われているらしい。アメリカの探査機オサイリス・レックスが地球に戻ってくるのは2023年。そこからスタートして152年の間に人類はベンヌにどう対応するのか。ブルース・ウィリスのような「石油採掘あれくれ男たち」をベンヌに派遣して粉々に爆破するのか。劇的な効果も含めてアメリカのお手並み拝見の152年間になりそうである。

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(余談)
杞憂であればいいのだが、なにしろアメリカにはどんなことであれ、自国の軍事力増強に応用しようとするダークサイドがある。アメリカ軍人の「魔」がこの小惑星の「威力」を知って悪魔のささやきをするのではないか。
「これほどの圧倒的な武器は、かつて地球に存在しないですよ。なにしろアンタ、一発で恐竜を滅したのですからねぇ」
大いなる警戒心と疑惑の目を持ってアメリカの対応を見守っていきたい。

…………………………………  * 魔の衝突・完 *

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