【 Google Moon 】
前回・前々回と、2回にわたって「太陽の塔」を語った。「太陽」とくれば、次は「月」である。「月の塔」はあるのか。絵本にある。確かに絵本のタイトルになりそうな素敵な言葉の組み合わせだ。しかし今回は絵本の話ではない。「Google Moon」で話題になっている「月の塔」があるのだ。
というわけで、このところ魔談は塔の話を追ってあちこち飛んでいるが、今回はしばし地球を出て「月の塔」に目を向けてみよう。
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そもそも「Google Moon」とはなにか。これは「Google Earth」のコンテンツのひとつである。コンピュータ画面で「Google Earth」を開き、ツールバーで「月」を選択すると月の好きなポイントを閲覧できる。最新の月の衛星写真を見ることができるのだ。その結果「奇妙なものが写ってる!」という報告が山ほど出てきたというわけだ。お決まりのUFOを筆頭として、巨大ピラミッドやら巨大基地やら巨大球体やら、巨神兵(ナウシカに登場)を連想させる「月面を行く巨人」まである。月のミステリー話題も「Google Moon」のおかげで一気に賑やかになった感がある。同時に「いつまで事実を隠し続けるのか!」といったNASA非難も増えているらしい。
さてその「Google Moon」だが、(不鮮明な部分が多いにせよ)まるで月球儀のように月をくるくると回して、好きな部分に注目することができる。月の裏側まで見ることができる。「奇妙なものが写ってる!」報告も月の裏側に集中しているところが面白い。……そう、「Google Moon」は「Google Earth」と違って、(あくまでも我々地球人から見た視点だが)表と裏があるのだ。
月は御存知のように、いつも同じ顔だ。自転周期と公転周期が地球とまったく同じだからだ。なので地球から月を眺める我々には、まるで自転していないように見える。影の深まり具合で姿を変えることはあっても、顔自体はいつも同じ顔である。満月であろうと半月であろうと、ティコ(放射状に光条が見える巨大クレーター)は月の南部ですぐに見つけることができる。
「満月のたびにお月さんの顔は違う」とか、もしそんなふうに月の自転がありありとわかるような衛星だったらさぞかし面白いだろうと想像するのだが……アンデルセンは反対するかもしれない。名作「絵のない絵本」冒頭に登場する貧乏画家は、屋根裏部屋から寂しい気分で夜空を見上げ、感動的に語り始める。
「……ああ、そのとき、わたしは、どんなに喜んだかしれません。そこには、わたしのよく知っている顔が、まるい、なつかしい顔が、遠い故郷からの、いちばん親しい友だちの顔が、見えたのです。それは月でした」(矢崎源九郎訳)
このような感動はやはり「同じ顔の月」でないと生まれてこない。同じ模様が見えないことには、「ウサギの餅つき」(日本)も、「ウサギの仙薬づくり」(中国)もない。それを思うと「同じ顔の月」は、古来より人類の情操と想像力に多大の貢献をしてきたのではないかと思われる。
しかし「表」があれば「裏」も見たいというのが、人間の浅はかな好奇心であり貪欲さだ。「お月さんの裏?……どうでもええやん」ということにはならない。
かくしてNASAは無人やら有人やらで月をぐるっと一周させて、写真を撮りまくった(1966~1978年)。地球儀ならぬ月球儀も1980年前後にようやく(球体として)完成した。そして現代では「Google Moon」が登場し、NASA非難は一気に増大した。
【 月の塔 】
さて本題。
誰が見つけたのかよくわからないのだが、「Google Moon」で話題の「月の塔」。まるでクレーターにピンが突き刺さったようなものが見える。
スコット・ウェアリング(UFO研究家)の調査では、この塔はクレーターの真ん中にそびえ立ち、高さはなんと5600mほどあるという。事実なら月面に立った状態でこの塔を眺めたいものだ。東武グループが誇るスカイツリーは634mだが、なんとその8.8倍の高さだというのだ。その頂上に立てば、さぞかしすばらしい景観だろうとは思うのだが、宇宙人が景観を楽しむために建てたとは思えない。ではなんのためにそんな巨大な塔が月にあるのか。あれこれ推測されている理由を調べてみると、大体次の3項目に分類できるようである。
(1)巨大宇宙船アクセス説
スター・デストロイヤー(スターウォーズ)のような巨大宇宙戦艦(あるいは巨大宇宙船/あるいは巨大宇宙生物)がアクセスするためにあるというのだ。まるで「スターウォーズ」のオープニングが聞こえてきそうな壮大な話で面白いが、どうやってこの塔とアクセスするのか、そこのところがイマイチよくわからない。
(2)宇宙船ワープ機能説
今度は「スタートレック」を連想させる話だ。宇宙船ごとワープさせるための装置だというのだ。思わずエンタープライズがシュパーッと気分よくワープするシーンを連想するのだが、このワープ説も根拠がイマイチよくわからない。
(3)古代遺跡説
上記スコット・ウェアリング氏は「いまは使われていないように思われる」と述べている。根拠がイマイチよくわからないのだが、古代宇宙人説を信奉する人々が大喜びするような話だ。遠い昔、この月を拠点として地球にしばしば来訪した宇宙人が建てたというのだ。なぜ地球に建てないで月に建てたのか。その点はよくわからない。またなぜこの塔を使うのをやめたのか。それもまたよくわからない。
……というわけで「Google Moon」登場により、月をめぐるミステリーが一気に増えてきた昨今だ。上記3説はそれぞれに面白いのだが、それにしても生真面目で「ハテどこかで聞いたような」といった説ばかりだ。どんだけNASAを叩いたところで事実はそう簡単には出てこないだろうから、もっと奇想天外な、不真面目な説がタケノコのように出てきた方が面白い。
たとえば「オブジェ説」というのはどうだろう。「月の塔」に機能などもともとないのだ。これは遠い昔、ここまでやってきた宇宙人が建てた記念碑である。ただの記念碑ではない。「いずれ、あの地球で進化したヤツらがこれを見つけた瞬間の大騒ぎ」がちゃんと届くように設計されている。「お楽しみは、これからだ」というわけだ。
* 月の塔・完 *
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