エドガー・アラン・ポー【 3 】24歳の編集長

【 11歳に求婚 】

今回は24歳のポーを語りたい。1833年。今から190年前。アメリカ北部の話である。
ポーは雑誌「メッセンジャー」編集長のポストにあった。24歳と言えば、大学を卒業して1年やそこらの若造だ。その歳で雑誌の命運を握る編集長として活躍した。大したものである。

ポーはこの雑誌をホームグラウンドにして短編小説を次々に発表した。またかなり辛口の文学作品評論を掲載した。この評論が話題になったのはいいが、おそらくは多くの文士の反感を買ったであろうことは容易に想像がつく。

ともあれ「メッセンジャー」誌は500部程度だったのが、一気に3500部ほど売れる雑誌になった。「まだまだ」と彼はきっと思っていたことだろう。「もっとメジャーにしてみせる」と意欲満々だったに違いない。

……で、この血気盛んな24歳編集長は、なんと11歳の従妹ヴァージニア・クレムに求婚した。小学校5年生の少女に求婚?
これはまあ、愛というよりは、所有欲に近い心理かもしれない。

以下余談。
名古屋で専門学校の講師をしていた時代、私は「Macデザイナーコース」の生徒たちに毎週のように宿題を出したことがあった。テーマを示し、それをA4の紙1枚にレイアウトしてエッセーを書いてこいと伝えた。内容は文章だけでもいいし、写真や絵を配置したものでもいい。それをクラスメイトの人数分だけ、自分でコピーをとって持ってくること。たとえば20人のクラスだったら(私の分も含めて)21枚のコピーを(コンビニとかで)とって持ってくること。そういう宿題を出した。

ただしこれはあくまでも「自主的にやりたい人だけで」ということにした。「成績評価とは無関係」と伝えていた。なので厳密には宿題とは言えず「自主制作課題」かもしれない。生徒の中には連日連夜のアルバイトで学費を稼ぎ、毎日の食事さえ満足にとっていない生徒がいることを私は知っていた。時間的にも経済的にも「無理な人はパスしていい」と伝えていた。しかし多くの生徒たちはこの宿題を意欲的に制作し、コンビニでコピーし、クラスメイトたちに見せることを楽しみにして教室に持ってきた。私は講義を始める前にまずそのエッセーを提出させ、クラス全員に配布した。

あるとき私はこの宿題で「一番大切なもの」というテーマを出した。すると最前列の女子が質問の手をパッと上げた。
「お母さんでもいいですか?」
涙が出るほどいい話が聞けそうな予感がしたが、「お母さん」は人であって「もの」ではない。一瞬、グッとつまって考えてしまったが、「まあ、いいでしょう」と。その女子の「母想いエッセー」を読みたい気分が優先してしまった。

さて翌週。「母想いエッセー」もじつに良かったが、ちょっと面白いエッセーがあった。
S(男子生徒)は人形の写真を配置したエッセーを持ってきた。「アンティークドールか?」と思ったがそうではなかった。

「初音ミク」と言えば「ははあ」とわかるのは40代以上だろうか。ともかくその当時、人気抜群だった初音ミクにそっくりのその人形は、いわゆるフィギュアとかそういうのではなく、結構大きい人形だった。身長はざっと80cm〜1mほどあるだろう。

「これが君の一番大切なものなのか?」
「そうです。一緒に生きてます」
ははあ、なるほど。そういう生き方もあるのかと私は思った。

私の場合はその程度の関心だったが、クラスメイトたちはそれでは済まないようだった。Sの人形はクラスで話題となった。彼は懇願され、多少気をよくしたのか、次の週にそれを学校に持ってくることになった。もっとも彼は「持ってくる」とは言わない。「連れてくる」と言った。彼の部屋に「お迎え」してから彼女が「外出」するのはこれが初めてだと言った。
「病気一歩手前だな」と私は思ったが、もちろん余計なことは言わなかった。

彼がエッセーで書いてきた話もなかなか面白かった。(その時から)2年と4ヶ月前、Sは秋葉原で彼女(人形)と出会った。
「秋葉原?」
日本一の電気街であり、家電製品専門店が密集している街だと思っていたのだが、こういう人形を専門に扱っている店もあるらしい。
「パッと目があって、運命を感じました。メグと名前をつけました」
「メグ?……その場で名前をつけたのか?」
「そうです、メグは僕の部屋にお迎えする運命だったのです」
「…‥」

Sはその人形の価格(14万円!)を確認し、すぐに店に予約したそうだ。
「翌日に来て、もういないということもあるんです」
以来、Sはメグと幸せに暮らしているという。部屋を出てどれほど辛いことがあっても、部屋に戻りさえすれば、ずっと彼の帰宅を待っていたメグが、どんな話でも黙って聞いてくれる。それが彼の生きがいらしい。

そういえば、いま公開中のホラー映画「ミーガン」はご存知だろうか。事故で両親を失った9歳の少女。その話相手として、少女と等身大・AI搭載という人形が与えられる。なにしろホラー映画なんで、この人形がどうなっていくのか、わかりますよね?

さてさて、なんと今回は余談だけで終わってしまった。まあ先を急ぐ話でもなし、ご容赦ありたい。次回はちゃんと(笑)ポー24歳の話を続けたいと思う。

【 つづく 】


電子書籍『魔談特選2』を刊行しました。著者自身のチョイスによる5エピソードに加筆修正した完全版。専用端末の他、パソコンやスマホでもお読みいただけます。既刊『魔談特選1』とともに世界13か国のamazonで独占発売中!

 

スポンサーリンク

フォローする