エドガー・アラン・ポー【早すぎた埋葬】(15/最終回)

【 ポルターガイスト 】

ふたつ前の【早すぎた埋葬】(13回/5月10日公開)で「ふと浮かんだ映画の1シーン」の話を書いた。以下のように書いている。

地中からボコボコと棺桶が地上に出てきて蓋が外れ、中からゾンビと化した死体が出てくるというシーンだ。さてなんの映画であったか?

この映画を思い出した。「たぶんB級ホラー映画の1シーンだろう」と予想していたのだがそうではなく、スピルバーグの「ポルターガイスト」(1982年)だった。DVDも所有している好きな映画だ。「移住してから一度も観てない。ということはこの8年間、観てない」と思った瞬間にムラムラと観たくなった。パッケージを見ると「驚異のSFXホラームービー」とある。確かに42年も前の映画だが「さすがはスピルバーグ」とつぶやきたくなるようなよくできた映画だ。SFXにも全然古さは感じなかった。

……で、ふたつ前の魔談でも書いているが、「瞑想に近い状態に自分を置き、ひつこく思い出そうと努力する」行為につき同年代の友人たちが興味を示したので、この「ポルターガイスト」を突き止めたくだりについてもう少し詳しく書いておこうと思う。以下は私の「記憶を探っていった暗中模索経過」とでもいうか、まあそのようにお考えいただきたい。

(1)断片的なシーンが記憶にある。その細部を思い出そうと努力。
・地中からボコボコと棺桶が地上に出てきた。
・蓋が外れてゾンビと化した死体が出てきた。
(2)棺桶の周囲に映画の主役あるいは準主役あたりがいたはず。
(3)そもそもなにがきっかけで、地中からボコボコと棺桶が出てきたのか?
(4)地面はぬかるんでいた。そういえば雨が降っていた。
(5)恐怖で、ずぶ濡れで、ギャーギャーわめいていたのは女だ。
(6)綺麗なブロンドが雨と泥でぐちゃぐちゃだ。
(7)彼女はママだ。異世界に行ってしまった娘を探してるんだ。
(8)「ポルターガイスト」だ!

【 じつは船室 】

さて「早すぎた埋葬」最終回。
語り手にとってはまさに最悪の現実化とでもいうべき状況が実際に起こってしまったわけだが、あなたはこの状況をどう見ただろうか。
意地の悪い私が推測した状況はこうである。これは語り手の悪友が仕組んだお芝居だった。「そこまで俺たちを信用できねえのなら、実際にその場で(蘇生した)自分で判断してもらおうじゃねえか」といった感じで、酒に酔った男たち数人が、泥酔して意識を失った語り手を箱に閉じこめたというわけである。悪さをした側もしたたかに酔っていたので、ベルの綱(安全装置)を箱の中に入れることを忘れていた。……なんて結末ではないかと。
というわけで原作の結末。順を追って見ていこう。

(1)語り手は大声で二度三度助けを呼んだ。
(2)男たちの声がした。語り手は男たちにゆすられた。
(3)語り手の記憶が戻った。
・彼は友人とともに猟に出かけた先で暴風雨に遭った。
・やむなく近くに停泊していた帆船の船室に避難し、そこで一泊した。
・船の窮屈な棚寝床に体を押しこむようにして眠った。
・ナイトキャップがないので、絹のハンカチを頭に巻きつけて眠った。
(4)意識が戻った時に、そのハンカチが顎にからまったのだとわかった。
(5)船は庭土を積みこんでいた。それで土の匂いが強く船室に漂っていたのだとわかった。

この強烈な体験のあと、語り手は……
・死への恐怖や幻想を捨てた。
・活潑な運動をするようになった。
・大空の広々とした空気を呼吸した。
・死よりもほかのことを考えるようになった。
・発作はぴたりと止んだ。

というわけで驚くなかれ、この陰々滅々小説は、最後の最後でなんとハッピーエンドなのだ。文学的にどうこうというよりも、人気雑誌に掲載した人気作家の大衆娯楽短編小説の面目躍如といったところだろうか。

【 完 】


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