【 魔談508 】モンマルトルの画家たち(9)

【 年頭の御挨拶 】

新年明けましておめでとうございます。
さて2026年。今年の4月、「ホテル暴風雨」は10周年記念日を迎える。少し先のことだが、誠におめでとうございます。
「そうか。かれこれ10年になるのか」と「魔談」開始の頃をなつかしく思い出した。

2016年4月8日、「魔談」開始。
風木さんのお誘いで「ホテル暴風雨」企画を聞き、光栄にもその一室をいただいた。「毎週連載」と聞いて気持ちが引き締まったものだった。「これはよほどしっかりした覚悟でいないと、1週間なんてあっという間だぞ」と何度も思った。
今年は過去10年の「魔談」をあちこち飛びながら酒を飲む、なんてのもええかも。なにしろ508回もやったのだから、毎日1作ずつ酒の肴にしたって1年以上かかる。この10年間、どの年にどんな「魔談」を書いてきたのか、それを読みなおしてみるのも悪くない。
とりわけ印象に残っているのは「魔のウィルス」だ。これは2020年3月20日から同年9月25日まで、なんと28回もやった。ざっと半年間ウィルスについて書いたわけで、この連載により、ウィルスについてはかなり詳しくなったように思う。
今年も「魔談」を、どうぞよろしくお願いします。

【 2発の弾痕 】

パリ北駅近くの小綺麗なワイン専門店で売っていたのは、ワインとチーズ。それだけだった。赤ワインは棚に並んでいた。白ワインとチーズはクーラーに並んでいた。両方ともじつに種類が多く、両方ともびっくりするほど安い。ボトルワインも、直径15cmほどの(鏡餅サイズ)チーズも20フラン(¥400)前後だ。「なるほど。この国じゃ、ワインとチーズは飲み放題、食い放題なんだな」などと思う。
ボトルを斜めにして置いてある「いかにも高級ワイン」といった棚もある。興味が走ったのでお値段を見た。50フラン(¥10000)。なるほど。

赤のボトルワインを買った。20フラン(¥400)。ブロンドの女性店員は(思わずデッサンしたくなるほどの)美人で、メリル・ストリープの若い頃(映画「ディア・ハンター」の頃)と似ていた。彼女の対応はじつに丁寧だった。私が「パルドン」と言いながら100フラン紙幣(¥2000札)を出しても笑顔を崩さず、お釣りのコインをくれた。声も魅力的だった。

パリ北駅に戻って、タクシー乗り場を探した。肩から軽機関銃をひっさげた警官が2名、立っていた。軽機関銃はウージー・サブマシンガンに似ている。しかしやや銃身が長い。それに誇り高きフランス警官がイスラエル・デザインのウージー・サブマシンガンを使うとは考えられない。たぶんメイド・イン・フランスなのだろう。
迷彩戦闘服に防弾チョッキという装備の黒人兵士も歩いてきた。巡回しているのだろうか。彼の武器はサブマシンガンではない。なんと胸の両脇にホルスターを下げている。2丁の拳銃で武装しているのだ。日本じゃちょっと考えられない光景だ。
警官2名が立っていた背後のガラスには弾痕が2発。パリ北駅ホールのガラスに2発も穴をあけて、いったいなにが起こったのだろう。しかし残っているのは武装警官、武装兵士、2発の弾痕だけで、それ以外の痕跡はなにもない。通行人もチラッと彼らに視線を走らせる程度で、慣れきった様子だ。

ガイドブックによれば、パリでは街頭でタクシーをつかまえることはあまりしないらしい。つまり「流し」のタクシーはほとんどないということなのだろう。タクシーに乗るためには、街角でよく見かけるタクシー乗り場に行って列に並び、そこで待機しているタクシーに乗り込むのだ。
幸い、タクシー乗り場はすぐに見つかった。並んでいたのは女性2人。話をしているから同じタクシーに乗るのだろう。

列に並んでしばらく待っていると、2台のタクシーが乗り場に入ってきた。2台目を見ると、なんとクラシックカーさながらのシトロエンだ。プロペラ機といい、シトロエン・タクシーといい、日本を出ると「これは初めて」といったものに次々と出くわす。これもまた海外旅行の醍醐味なのかもしれない。


(余談)
写真は宮﨑駿がこよなく愛していたシトロエン2CV。彼は免許証を自主返納したので、今はジブリパークに展示されているらしい。それにしても味のあるデザインだ。さすがはフランスだ。私が乗ったタクシーもまさにこれだった。タクシー乗り場にこれが入ってきた時は驚いたが、このタクシーに乗ってパリ市内を走った時は、結構、このクラシックタイプ・シトロエン(タクシーではなく自家用車)が走っているのを見かけた。

【 つづく 】


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