【 前口上 】( 魔のシーン 1 )

新年明けましておめでとうございます。
今年も(相変わらずの)「魔談」をどうぞよろしくお願いします。

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さて今年の魔談は元旦から開始。「だからなんだ」と言われればそれまでだが、元旦魔談、この全く異質なふたつの言葉をくっつけた一種異様な言葉が気にいっている。
意味や雰囲気が全く異なるふたつの言葉が出会うとき、あるいは無理矢理に出会わせたとき、まるで(相互の言葉が感じているであろうドンビキ感から)スパークが発生したように、そこから物語が生まれる可能性がある。たとえば「ノートルダムのせむし男」「魔女の宅急便」「おばあさんのひこうき」「ジュラシック・パーク」。

もしあなたが(こんな時代なんだし)(どうせ外には出られないんだし)「なにか物語を書いてみたい」とふと思ったとする。「あたしだって、一生に一作ぐらいは、あたししか書けない物語がきっとあるはずよっ」と思ったとする。この「言葉スパーク作戦」から世界を編み出してみるのはいかがだろうか。

かく言う私も時々楽しんでいる。「縁起のよい言葉」や「おめでたい名称」を目にすると、即座に「魔談」とくっつけてみる。なにかインスピレーションが降りて来るかもしれない。なにか新しい魔界を創造する歯車が、ゆっくりと回転し始めるかもしれない。たとえば「婚礼魔談」「婚活魔談」「松の内魔談」。

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さて本題。
今回から(正確に言えば次回から)「魔のシーン」シリーズを開始したい。これは「毎回読みきりのショート魔談」という設定である。映画、アニメ、小説、絵本、図鑑などなど「このシーン(場面)はなかなか」という筆者推薦の場面紹介をしたい。面白いシーンも(少しは)あるだろうし、つまらないシーンも多々あるだろうが、まあ1回キリの雑談魔談なんで、「怖がる」というよりも「相変わらずつまらん話を熱心に書いてやがんなぁ」と笑って読み飛ばしていただければ幸い。

そもそも「魔」イコール「怖いこと」ではない。私は喫茶店の店頭看板で「魔の珈琲」という文字を見て思わず笑い、思わず入ったことがある。コーヒーを怖がる人はいない。コーヒーは人を襲ったりしない。

いやしかし、ホラー映画原作の帝王スティーブン・キングなら、やりかねない。なにしろこの王様は「ありえないものが人を襲う」という設定が大好きだ。暖かい湯気がふわりと出ているコーヒーカップを手にしてひとくちすすろうとしたら、カップの中からいきなり茶色の半透明ナメクジみたいなのがヌオーッと出てきてそのまま口から体内に侵入した、なんて悪趣味なシーンなど、きっと手を叩いて喜ぶに違いない。
しかし普通はそんなことはまずない。街頭で「魔の珈琲」という看板を目に止めて「怖いのはイヤ」と思う人はまずいない。「なにがどう魔なのか」と(失望覚悟で)私のような珈琲ファンは思わず入ってしまう。それこそ「魔」という言葉が有する魅力である。

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ところでスティーブン・キングと言えば……と、またもや脱線だが、まあ今回は「魔のシーン前口上」なので、笑って流していただきたい。

彼が珍しくTVに出てきて取材に応じているのを見たことがある。なにしろシャイな王様なんで、そういう場には滅多に出てこないが、「人には恐怖という感情が必要」といった主旨の、いかにも彼が語りそうな話をしている最中に、ボソッと、まるでひとり言のように「僕は病的なウソツキだ」と言った。

この言葉が印象的だった。私は思わず彼の表情を注視し、彼の次の言葉を期待した。……が、続く言葉では、彼は違う話(映画談)を始めた。なにを思ってこんな告白をしたのだろう。いまだによくわからない。この独り言、前後の話に脈絡がないこの発言のみが、妙に記憶に残っている。共感したというよりも「ああやはりそうなのか」という一種の確認とでもいうか、そんな印象として記憶に残っている。

その後数年が経過し、あるとき個人面談で私の前に座った専門学校生徒(女性)が、私にこう言った。
「先生、私は小さい時からすごくウソツキなんです。精神が弱いんです」
一瞬、どう返事したものかさっぱりわからなかったのだが、私は「王様のひとり言」を思い出した。そこで言った。
「それは才能に変換できるかもしれないよ。みんなが感動する物語が、そこから生まれるかもしれないよ」
そしてスティーブン・キングの話をした。

歳月は経過し、その面談から11年が経過した。(たぶん8年ぶりぐらいで)彼女はメールをくれた。短編小説受賞の連絡だった。
「先生の、あの時の励ましの言葉がなければ、私のこの受賞はありませんでした」
しばし真剣に悩んだが、やはりわからないものはわからない。私は返信した。
「どんな励ましをしたっけ?」

……………………………………* 魔のシーン前口上・完 *

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