3者3様の面白さ!「トップガン マーヴェリック」「帰らない日曜日」「夜を走る」

久しぶりに、ほぼ満員の大きな劇場で、娯楽映画の王道とも言うべき作品を堪能した。「トップガン マーヴェリック」だ。説明する必要はないだろう。36年前公開、トム・クルーズが主演した「トップガン」の続編だ。正直言うと、前作はそれほど面白いとは思わなかったのだが、今度の映画は違う。ぶっ飛びの面白さだ。

監督:ジョセフ・コジンスキー 出演:トム・クルーズ マイルズ・テラー ジェニファー・コネリー他

監督:ジョセフ・コジンスキー 出演:トム・クルーズ マイルズ・テラー ジェニファー・コネリー他

今年還暦60歳を迎えるトムは、今回は何をやるかと思ったら、教官となって、若きパイロットたちを訓練する役を担う。設定の無理がない。精鋭を鍛え上げ、自らも戦闘機に乗り、某国のウラン精製工場を爆破しようとする。
その本筋に加えて、シングルマザーのいい女とのロマンスも描かれる。指導する若者の中には、若い頃、事故で亡くなった相棒の忘れ形見もいる。彼からは自分の進路の邪魔をされたと誤解されていて、二人の葛藤も描かれる。
というように、映画には、様々な娯楽の要素が詰まっていて、全く飽きさせない。クライマックスは、海上の空母から出撃し、山岳地帯での敵地攻撃となる。無論、敵国もミサイルや戦闘機で反撃してくるのだ。

自分は、戦いを描く映画の場合、時々、どんな戦いがどう進んでいるか分からなくなることがあるが、この映画では、観客に上手く情報が与えられているので、本当に分かりやすく、臨場感があるというか興奮してくる。そこもいい。
ラストの展開には、驚いてしまう。いかにも楽天的(?)アメリカ映画の、笑ってしまいたいようなハッピーな展開だ。
トム・クルーズは、CGなしのこの映画で、実際に戦闘機に乗り、大きな重力加速度を受けて演じている。いや、本当に貴重な俳優になって来た。

監督:エバ・ユッソン 出演:オデッサ・ヤング ジョシュ・オコナー コリン・ファース他

監督:エバ・ユッソン 出演:オデッサ・ヤング ジョシュ・オコナー コリン・ファース他

さて、タイプが全く違うが、イギリス映画「帰らない日曜日」も面白い。ちょっと凝った構成の、新感覚の映像だ。1924年、ある日曜日、イギリスの郊外の金持ちの邸宅に若い孤児院出身のメイドがいて、違う金持ちの邸宅に自転車で出かけ、その家の、別の女性と結婚間近の若者と初めての情事を経験するところから始まる。
「凝った構成」というのは時制が3つあるからで、最初はややとまどう。しかし、後半とても面白く、最後まで見ると、イギリス映画の秀作「つぐない」(老女が過去を回想する映画)と「日の名残り」(貴族の生活が描かれる映画)をミックスしたような作品であることが分かる。実は、女性がある職業を選んだそのきっかけが3つあり、それが劇的に語られるという、結構真面目な話に着地していくのだ。見終わって、人は、そもそも生きることが劇的なのだ、と思ってしまった。

とても印象的な描写がある。主役の若い女優さん(新星オデッサ・ヤング)は、若者が先に屋敷を出た後、一糸まとわぬ、すっぽんぽんの姿で、貴族のお屋敷内を歩き回るシーンが続く。書斎で本を見たり、食事をしたりする。それが10分くらい続くか。まことに自然だ。
トム・クルーズの新作が万人向けならば、この映画は、映画通向けと言えないだろうか。謎めいてすぐに展開の読めない面白さがあり、人生の面白さを感じさせるのだ。

さて、好きな映画をもう一本! これは、面しれえじゃん、と評価するか、暗くてイヤだと拒否するか好悪が大きく分かれよう。日本映画の「夜を走る」だ。

「夜を走る」監督:佐向大 出演:足立智充 玉置玲央 菜葉菜ほか

「夜を走る」監督:佐向大 出演:足立智充 玉置玲央 菜葉菜ほか

埼玉の地方の鉄くず工場に勤める40歳の独身男性が主人公だ。仕事先でも職場でも他人に気を遣って生きている地味な男だ。前半は、暗い日本を表すような、北埼玉の荒涼とした風景が多く登場し、音楽や効果音も、少し大きくて不快な感じを持つ。
ある時、殺人事件が起きたことがきっかけで、主人公は、ある啓発セミナーに入会し、別人のように変貌していく。
主人公に肩入れしたのか、セミナーはうさんくさく、危ないのではないかと、こちらも思いつつも、日ごろ言いたいことを抑えて(?)生きる自分も、あんな風に解放されたいなあと思ってしまう。

脇で出て来るメンツが役柄に合って見事に決まっている。現在の日本映画の名脇役ばかりだ。セミナー主宰者の宇野祥平。ヤクザの松重豊(目が怖い)。刑事の川瀬陽太。よく揃えたなあ。
主人公が、女装して、啓発セミナーがある建物の階段を上っていく時の彼を捉えた長回しのシーンには惹きつけられる。その後も、「拳銃」を持った彼の行動に、ラストまで緊迫感が続く。
簡単に解釈を許さぬ映画だが、こういう映画を観ることも「映画の快楽」の一つなのだ。

(by 新村豊三)

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