三人三様の女性たち「愛はステロイド」(米)、「アイム・スティル・ヒア」(ブラジル)、「風のマジム」(日)

アメリカ、ブラジル、そして日本と、場所は違えど、女性が印象的な映画を3本取り上げたい。
先ず、アメリカ映画「愛はステロイド」。けったいなタイトル。原題は「LOVE LIES BLEEDING」。「愛は血を流して存在する」といった意味だろう。真面目な映画もいいが、映画ファンとしては、時には、B級ムード濃厚な、犯罪や裏切りや暴力といった痛快でゾクゾクする映画も見たくなる。これはそんな要求を満たす映画で「映画的快楽」を与えてくれる。

「愛はステロイド」監督:ローズ・グラス 出演:クリステン・スチュワート ケイティ・オブライアンほか

「愛はステロイド」監督:ローズ・グラス 出演:クリステン・スチュワート ケイティ・オブライアンほか

時代は1989年。アメリカの荒んだ南部の街でスポーツジムを経営するレズビアンのルーは、ジムにふらりとやって来たマッチョな女性ジャッキーに惹かれ、一緒に暮らすことになる。ジャッキーは、射撃場でバイトをし、ラスベガスのボディビル大会に出場する予定だ。その体たるや女ランボーのようで(当時、映画「ランボー」がヒットしていた)筋肉を増強するためにステロイドを摂取している。

さて、ルーの姉の亭主がDV夫で妻に暴力を振るう。それを知ったジャッキーが、その亭主を殴り殺す(顔がえぐられてしまう!)。そこから、事件が始まる……
犯罪を行っていたルーの父親や、グルになる警察も二人に絡んでくる。この、独特の面白映画の脚本・監督はローズ・グラスという女性監督。男に負けてない。この映画に説得力を与えるジャッキー(ケイティ・オブライエン)の鍛え上げた肉体も一見の価値がある。

監督:ウォルター・サレス 出演:フェルナンダ・トーレス セルトン・メロ フェルナンダ・モンテネグロ他

監督:ウォルター・サレス 出演:フェルナンダ・トーレス セルトン・メロ フェルナンダ・モンテネグロ他

さて、実在の女性を描いたブラジル映画「アイム・スティル・ヒア」が社会派作品で見応えあった。
1971年、ブラジル軍事政権下、元政治家の夫が軍に突然連行され、そのまま消息を絶つ。妻、すなわち主人公は土地を離れ、弁護士の仕事をしながら、5人の子供を育てる。やがて、夫の死が確定し、本人も老いてゆく、といったストーリーだ。
最初はなかなか「話」が動き出さないが、夫が軍に連行され、続けて主人公と次女が連行されるシーンから一挙に緊迫感が増す。連行中、被っていた覆面を取ると、部屋で取り調べが始まる。怖い。韓国映画でKCIAに拷問を受ける映画を何十本と見てきたが、こういったことは世界のいろんなところで起きたのだろう。

時代が1996年になる。子供たちは立派に成長しており、ついに、国から夫の死亡証明書が出る。ヒロインが、部屋でスクラップブックを取り出す。夫に関するいろいろな新聞の記事などが貼ってある。ずっと空いているところに、年月が過ぎて、その証明書が貼られる。死の確認の行為。印象的な演出だ。

また時代が流れる。2015年。孫も生まれ、ヒロインは認知症を患っている。意志も気力もないようだが、夫のことがテレビ番組で報じられるとそれに反応を示す。夫が奪われたこと、遺体が出ない事は、魂の奥底に怒りとして残っているのだ。「アイム スティル ヒア」なのだ。
この映画、ブラジル軍の反体制派への非人間的仕打ちを糾弾しているが、一人の女の孤独な戦い、強さ、執念、その輝きも描いている。ここに感銘を受ける。

好きな映画をもう一本! 時に、お気に入りの女優さんの軽い映画も見たくなる。ご贔屓伊藤沙莉主演の「風のマジム」は、軽いけれどキチっと作ってあり、しかも沖縄に関して視野が広がるいい映画だった。

監督:芳賀薫 出演:伊藤沙莉 高畑淳子 富田靖子ほか

監督:芳賀薫 出演:伊藤沙莉 高畑淳子 富田靖子ほか

伊波まじむ(伊藤沙莉)は沖縄の食品会社の契約社員。社内のベンチャーコンクールで沖縄のサトウキビを使ったラム酒の製造を提案し、色んな苦労の末に、成功する話である。
ラム酒がサトウキビで作られ、日本にはマルティニーク島で作られたラムが入って来ていると初めて知った。沖縄はサトウキビの生産量が日本一だが、精糖に使われるだけで、酒の製造には使われていないのである。
会社は東京の高名な醸造業者に醸造を依頼するが、彼は沖縄にやって来てじっくり醸造することはしないと言う。モノつくりには「魂」が込められるべきだと考えるマジムは、地元の、地味なしかし美味しい酒を造っている瀬名覇に依頼することになる。この瀬名覇を演じた滝藤賢一が独特の、含羞と職人のこだわりを持った人物を好演した。
映画の最後に、お祝いの会で参加者に出来たばかりのラム酒が振舞われるが、ああ、俺にも頂戴よと思ってしまった程だ。

さて、「マジム」とは、「真心」、「本当の魂」と言う意味であることも知った。確かに、「チムドンドン」という言葉があるが、心臓がドキドキすると言う意味だったもんな。

(by 新村豊三)

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