炎天下の8月、話題のドキュメント映画3本に足を運んだ。「よみがえる声」「太陽の運命」「黒川の女たち」である。それぞれ意欲作で、これまでよく知らなかった様々なことが学べた。しかし、「黒川の女たち」を除けば、日本の戦後の問題点を沢山指摘され、結構シンドイ気持ちになったのも事実である。

「よみがえる声」監督:朴壽南 朴麻衣
「よみがえる声」は、在日2世、3世の母娘の映画監督が共同で撮ったドキュメント。実は、不勉強で母パク・スナムさんも娘のパク・マイさんも知らなかった。
前半大変面白い。この母親の半生と政治的活動が描かれていく。朝鮮総連の学校の高校生だった頃、構内に国家権力が入って来て、それを阻止しようとして殴られたことがその後の行動の原点になる。記者をやっていた頃、「小松川事件」の若い死刑囚と手紙のやり取りをしていたこと、それを本にしたことが語られる。そういった内容が、当時の都の朝鮮部落などの様子、北への帰朝運動などのフイルムなども織り込んで描かれ、大変にビビッドかつ力強く、引き込まれてしまう。こんなに力強く自立した、在日の問題を追及している女性がいたのかと感銘を受ける。
映画の後半、彼女が撮った映画、あるいは残していて今回新たに編集された映像から、在日関連の諸問題が沢山提示されると、日本人の私としては些か辛くなってくる。在日あるいは帰国した人たちの被爆者の補償の問題、慰安婦の問題、長崎軍艦島の徴用による強制労働の問題である。
結構、個々の問題が重いのだ。日本人として、どう答える、どう対応すると沢山の問題を突き付けられたように感じられる。「反自民」としてずっと選挙に行っているが、それ以上の政治アクションを求められてもシンドいと申すしかない。

「太陽の運命」監督:佐古忠彦
次は「太陽の運命」。「太陽」には「ティダ」とルビが振られている。「ティダ」とは琉球語で「太陽」だ。TBSのディレクター佐古忠彦が、これまでTBSが撮りためていた戦後の二人の沖縄知事――沖縄日本復帰後4代目の太田昌秀と、任期半ばで亡くなった7代目の翁長雄志 ―ーの足跡を辿るものだ。そこから、沖縄や日本政府の立場が見えてくる。
沖縄の現代史が学べる。歴史的事実以外に、太田氏と翁長氏の因縁の人間関係が興味深かった。太田氏は沖縄戦の時、師範学校の生徒。早稲田大やアメリカの大学を出てジャーナリズムが専門の琉球大教授。その後、請われて知事へ。翁長氏は、戦後生まれで、法政大を出て、市会議員から県会議員、那覇市長。太田氏が知事の間は、太田氏と激しく対立し退陣に追い込むも、自分が知事になると立場が太田氏に重なっていく。そこが面白い。その理由は基地に関して政府が約束を果たさないからである。方針を転換したのは小泉総理、それを継いだのが安部であり、菅である。そういう歴史の流れがよく分かる。
それにしても、沖縄の人は大変だという思いを新たにする。そして、これまた、新たにするだけで終わり申し訳なさを感じる。

「黒川の女たち」監督:松原文枝
好きな映画をもう一本!「黒川の女たち」、これは素晴らしい。気楽に見られる映画ではないが、上の2本と比べて気持ちが明るくなる。
戦前、岐阜の黒川村の人たちが、満州に満蒙開拓団として渡るが、敗戦とともに大混乱に陥る。地元満人の攻撃から身を守るため、ロシア兵に保護を依頼した。その見返りとして、18歳以上未婚の女性たちがロシア兵(将校)の「性接待」の役を担わされる。彼女たちのお陰で、助かって帰国するも、戦後、「なかったこと」にされる。すなわち、村の者や親族から、村の恥、女の恥、汚いものとして扱われ、彼女たちは沈黙し耐える生活を続けたのだ。
それを描く前半部分は、やはり、見ていて辛い。しかし、戦後、それではいけないと、村の人たちが地蔵菩薩の「乙女の碑」を建てる。次に10数年後、関係者から証言を集めて、「性接待」の事実を記して謝罪の言葉を刻む碑文を建て、名誉を回復させる。この映画はそこが素晴らしい。
暗い、辛い話だったのが、人間の明るさ、希望みたいなものが浮かび上がるのがいい。碑文を書いたのは私と同世代の方だ(遺族会の会長)。犠牲を引き受けた方の中には、今は、孫に尊敬され、ひ孫まで生まれ、楽しく人生を送る方もいる。特に佐藤ハルエさんは強さや明るさがあり、人としてとてもチャーミングなのだ。
開拓団が、実態は最前線の兵士の肩代わりであったこと、集団自決があったことも知った。
(by 新村豊三)