立て続けに映画の魅惑を放つ新作外国映画3本を見た。こんなに面白いのが続くと改めて映画ファンで本当に良かったと思う。2本は話題のアメリカ映画、もう一本はまだ上映館が少ないハンガリー映画である。
まず、「デトロイト」。1967年、アメリカ第5の大都市デトロイトで人種差別に反対して黒人の暴動が発生し、これが数日間続く。その時、ある黒人の歌手のグループが宿泊先のモーテルで一晩中警官に虐待、暴行を受ける。映画はその一部始終をドキュメントのように描く。実話との事。
若いヤンキー警官による黒人や偶然居合わせた白人女性へのいたぶり、暴力が凄い、酷い。この、目の吊り上がった警官を演じた俳優の演技は一生忘れることは無いだろう。いきなり銃をぶっぱなして黒人を殺害しておきながら自分のナイフを遺体の脇に置き、オレは正当防衛のために撃ったのだと主張していく。偏見に凝り固まり、しかも暴動を抑えるために「正義」を行使していると思い込んだこんな手合いが一番怖い。大げさに言えば人間の「悪魔性」を見た気がする。
50年も前の話だが、今でも警官が黒人を射殺する事件はアメリカで頻発していて差別は後を絶たない。嘆息する。
この容赦ない演出をしたのは女性監督キャサリン・ビグロー。イラクでの地雷除去を描く2009年の「ハート・ロッカー」も緊迫感溢れる完成度の高い映画だった。尚、彼女は「アバター」「タイタニック」のジェームズ・キャメロン監督夫人である。
同じ日に続けて見たのが「スリー・ビルボード」。作品賞を始めとしてアカデミー賞に多数ノミネートされている。
自分の娘がレイプされ殺されたのに警察がきちんとした対応をしないことに怒りを感じた母親が、道路に三枚の赤いド派手の広告看板(ビルボード)を立てる。それには、「犯人逮捕はまだ?」といった文字が並ぶ。そこからミズーリ州の田舎町で、ユニークなドラマが始まる。
この映画にも、少し落ちこぼれで冴えない下っ端の30代後半の警官が登場する。何と、看板会社の無抵抗の若い社長を事務所の二階から外へ投げ飛ばして大怪我を負わせたりする。
また、酷い警官か?と思う。ところが。母親も反撃に打って出るのだが、この警官となかなか面白い交流が始まっていくのだ。ここがこの映画の最大の見どころだろう。この警官がとてもいい味を出していく。
随所にユーモアがあり、田舎町ののんびりした風情もあり、見終わった印象がとてもいい。「デトロイト」はもうしばらく見直さなくていいが、これはまた見てみたいと思う。そんな人間臭い柔らかい魅力がこの映画にはある。
さて、好きな映画をもう一本!
新作のハンガリー映画「ジュピターズ・ムーン」は、今まで見た事のない映画だ。
ブタペストに難民として不法入国したシリアの若者が、難民キャンプで一人の医師と知り合う。若者には空中浮揚の能力があることが分かり、借金を抱える医師は彼を使って金儲けすることを企む。地下鉄で自爆テロが起き、二人は容疑を掛けられ警察から追われる身となるというストーリーだ。
この映画は、欧州に難民が押し寄せる緊迫した現実を反映して重厚でありつつも、人が「空中浮揚」するという奇想天外さに、冴えたアクション演出(例えば長廻しのカーチェイス!)が加わり映画的興奮を生んでいる。なぜ宙を浮くのか説明は一切ないが、浮くシーンと全体のリアリズムが溶け合って違和感はない。そこが面白い。
この映画は、一部にSFエンターテインメント映画と評されているが、私には、映画のラストに至って、SFというより一種の宗教性を感じた。若者はブタペストの街を下に見ながら、優雅に舞うように宙を浮くが(撮影が見事)、彼は神が遣わした天使、あるいは神そのものに見えた。奇跡を起こすかのようだった。
こう感じてしまうのも、私たちがメシア(救世主)願望を感じるような混迷の時代を生きているからだろうか。
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(by 新村豊三)