この秋に見た、先の読めないハラハラさせられる個性的な日米の3本を紹介したい。面白い人にはメチャ面白いが、一方で拒否反応を起こす観客も多いと思われる作品だ。
まずアメリカ映画の「クワイエット・プレイス」。
SF設定のニューホラーサスペンスと言えばいいだろうか。時と場所は近未来のアメリカの中西部だろうか、あたりには人がほとんどいなくなったところに、小さな子を持つ中年の夫婦が住んでいる。
冒頭で直ぐに分かるが、人が声を出したとたんに宇宙からの異生物が襲い掛かり死に至らしめられる。そう、この映画のクリーチャーは人の声に敏感に反応するのだ。
この映画はその家族がいかに声を出さずに息を潜めて生活しその異生物と闘い生き延びようとするかを描く異色の作品だ。映画の感想は、面白い、面白い、面白い!と同時に、キライ、キライ、キライ!という矛盾したものである。
映画の「強度」と言うか、つまり映画のリアルさ、役者の恐怖の演技は半端ないし、こんなホラー映画でも「親子の心の交流」というのもちゃんと入っていて魅せるのだ。脱帽せざるを得ない。
一方、女子供、赤ちゃんまでを苛め抜く映画なのだ(正確に言うと危害が及ぼうとする)。
ネバばれを書くと、この夫婦の母親は妊婦さんなのだ。私はどうもこの手の映画はイヤだなあ。心臓に悪かった。でも面白い。蛇足を書くと、監督とこの映画の母親役の女優さんはご夫婦だ(だから、過酷な役をやらせることが出来るのか)。
次は日本映画「愛しのアイリーン」。
田舎に住む中年独身男がフィリピンに行きお見合いをして少女のような嫁を日本に連れてくる。男はカラオケ店に勤め、実家は母親が暮らしている。この母親が強烈である。猟銃を持ち出してきて「外国人の嫁は取らせない!」と叫んだりする。二人の愛の交わりをふすまに穴を開けて覗こうとする。
強烈なのはこの母親だけでなく、この地に暮らす人の多くが少し変だ。旦那が刑務所に入っていて誰とでも性行為を持つ綺麗な女性もいれば、主人公の自慰行為を見て「人さまの秘め事を見てしまいました」とわざわざお詫びにくるカマトトの(?)若い女性もいる。
最初は違和感があるものの、これは人間喜劇かと思って見ると面白くなる。特にラスト、雪の降りしきる中、信州の「姨捨伝説」を踏まえた、フィリピン嫁と母親のある行為の描写は見ごたえがあり、引きつけられる。撮影も演技もいい。監督はここを映画でやりたかったのだと思う。
正直言うと、大好きな作品ではなく、私の信頼する映画仲間も大きく賛否が分かれている。そこが面白い。それくらい、映画にパワーがある。
最近日本映画は「キラキラ映画」、すなわち高校生の恋愛を描く映画ばっかりであるが、この映画は生なドロドロした日本人(プラス フィリピン人)を描かんとする点で志は高い。
さて、3本目はまたアメリカ映画の「アンダー・ザ・シルバーレイク」。
ハリウッドに住む無職兄ちゃんが同じマンションに住む若い女と親しくなった後、突然その女が失踪する。大物映画プロデューサーも殺され、これは何か関係があると調査を始める。
70代風のテイストがあり、音楽がひっきりなしに流れアニメも登場する。アメリカンカルチャーがごっちゃに出てくる。アンちゃんが双眼鏡を使って他人を盗み見るところはヒッチコックの「裏窓」みたいな感じがあったり、迷宮に迷うところはデビッド・リンチみたいな感じがあったりする。昨年の「ラ・ラ・ランド」で出てきた、ハリウッドの市街地を見下ろす場所も登場する。
ラスト近くは新興宗教が出てくる。その新興宗教が言っていることも一理ある、と思ったりする。
そんな何か変な映画だ。主役の背の高い細長いアンちゃんは、アンドリュー・ガーフリードという「ハクソ―・リッジ」や「沈黙 サイレンス」に出ていた俳優だが好演。失踪する女は何とプレスリーの孫娘との事。
(by 新村豊三)
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