クイーンのフレディ・マーキュリーを描く音楽伝記映画「ボヘミアン・ラプソディ」

音楽に疎いと言っていい私はイギリスの往年のロックグループ、クイーンの曲のメロディの幾つかは口ずさめるが、クイーンのメンバーについてはほとんど何も知らなかった。クイーンの伝記映画「ボヘミアン・ラプソディ」を見る前、職場の同僚に、グループのリーダーのフレディ・マーキュリーのことを教えてもらって彼が1991年、45歳の若さにしてエイズで亡くなったことを初めて知った位である。

映画「ボヘミアン・ラプソディ」監督:ブライアン・シンガー 出演:ラミ・マレック ルーシー・ボーイントン他

監督:ブライアン・シンガー 出演:ラミ・マレック ルーシー・ボーイントン他

この映画を公開二日目に見て圧倒された。上映時間130分であるが、飽きなかった。見ごたえ・聴きごたえ十分の映画である。映画が始まる前のいつも見慣れた「20世紀フォックス」のファンファーレが、エレキギターの音となっているところからして、センスがいい。
クイーンの映画というより、フレディ・マーキュリーの映画だ。彼を主軸にしてクイーンがヒットを飛ばし有名になっていく過程、ユニークな音楽作り、他のメンバーや恋人たちとの関係などが描かれる。
物語は1970年、イギリスヒースロー空港で当時肉体労働をしていた若きフレディが、クイーンの前身のスマイルのコンサートに出かけ、丁度メンバーの一人が欠けてしまい、自分を売り込むエピソードから始まる。
有名になった後、クイーンは一度は分裂するが、1985年のアフリカの飢饉を救うチャリティコンサートのライブエイドで再結成する。そして、その頃には彼の肉体は不治の病であるエイズに蝕まれ始めている。

映画として圧巻なのはそのライブエイドのコンサートだ。21分間、何万人もの観客の前でフレディは熱唱して観客を興奮のるつぼにしていく。ここのシーンの演出、映像共にお見事である。見ていた私も観客の一人になったかのように高揚したと言うか、映像と音楽による陶酔の時間であった。
しかも、彼の病気の立場を知っている観客はフレディが歌う歌詞が正に彼の切実な心情の吐露になっているので、一層心に迫ってくるのだ。
45歳の若さでエイズ死。もっと生きたかったと思うし、今と違ってLGBTに対する世間の理解がなかった頃だから、自分の闘病も発表できず、さぞ辛かったと思う。芸術家の栄光と孤独と書くと紋切り型であるが、そうとしか言いようのない凄絶な人生だ。

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映画『エディット・ピアフ 愛の賛歌』

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音楽伝記映画と言えば、自然に思い浮かぶのは2007年のフランス映画「エディット・ピアフ 愛の賛歌」だ。フランスの大歌手の半生をフランス一美しいと言われる女優マリオン・コティアールが演じた映画だ。
孤児院で育つという不幸な生い立ちをした彼女が徐々にその歌声の素晴らしさを世界に認められていく。その幸せの絶頂の中でフランス人の恋人(プロボクサーのマルセル・セルダン)の乗った飛行機が飛行中に大西洋で行方不明になってしまう。それでも歌い続ける。
彼女の歌うシャンソンは私の心に刻まれている。「愛の賛歌」「ばら色の人生」などだ。映画の公開当時サントラを買い求めてよく聞いたことを覚えている。

映画「フィラデルフィア」トム・ハンクス

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さて、好きな映画をもう一本!
「ボヘミアン・ラプソディ」の中で、クイーンのメンバーたちが、ある曲を「オペラ風」に作ろうとするエピソードが描かれる(この曲こそ、映画のタイトルになっている)。
1993年に見たトム・ハンクス主演のアメリカ映画「フィラデルフィア」が頭に浮かぶ。有能なやり手の弁護士であったトムはフレディ・マーキュリーと同じように、不治の病エイズに倒れ死の床に就く。死期を悟り病室で点滴を受けながらも自分の足で立ってオペラを聴き、もっともっと生きていたいと願う。25年前に見たのに今でも覚えている切ないシーンだった。
トム・ハンクスはこの映画によって、それまでの喜劇俳優というイメージから脱却し、シリアスな演技も出来る俳優へと成長して行った。この映画でアカデミー主演賞を受賞。翌年も「フォレスト・ガンプ/一期一会」によって連続受賞し、名優の道を歩んでいく事になる。

(by 新村豊三)

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