前々回、中国でも大ヒットを飛ばした高倉健主演の「君よ憤怒の河を渉れ」について少し触れたが、先日、この映画を福山雅治主演で香港の大監督ジョン・ウーがリメイクするという記事を新聞で読んで驚いた。ターゲットは日本と中国だろうが、中国での大ヒットを目指して夢よもう一度ということなのだろうか。
さて、今回は映画による日中交流について書いてみたい。まず、この「君よ憤怒の河を渉れ」という映画についてだ。
政治家の計略により、無実の罪で警察から追われる身となった検事(高倉健)が逃亡を続け、北海道の農場の娘の援助を受けたりしながら無実を晴らそうとする、1976年(昭和51年)の映画だ。
大傑作と言うわけではないが、まあよく出来たアクション映画だ。テンポが早いのがいい。北海道から東京に戻ってくるのに検事自らがセスナ機の運転をするという荒唐無稽だが手に汗握るシーンもあった。西新宿の盛り場で何と北海道の娘が数十頭の馬を疾走させ、自らも馬に乗り、高倉健を馬の背に乗せ街を駆け抜ける(!)という今では発想も撮影も考えられない卓抜奇抜なシーンもあった(馬の1頭が行方不明になり、撮影を許可した警察の担当の人が左遷された由)。
これが1982年に中国で公開されるや、文化大革命の暗い時代を生きて娯楽も無かった中国(映画は旧態依然の教条主義作品のみ)では、まことに眩い世界として映って空前の大ヒットとなる。職場の同僚に中国人の男性の先生がいるが、彼は「描かれた日本を見て、こんな夢のような世界があるのかと思いましたよ」と話してくれた。
中国で健さんの人気は高く、10数年前の日本における韓国俳優ヨン様人気の数十倍!だったらしい。因みに「孔雀」という文革の頃の庶民の生活を描いた中国映画に、家族が連れ立ってこの映画を見に行くシーンがあり、スクリーンに健さんたちが北海道で馬に乗るショットが映る。若い日に見て魅了され、この33年後に健さん主演で映画を撮ったのがチャン・イーモーだったのは前々回に触れたとおりだ。
演出した佐藤純弥監督は、1982年にも日中の棋士の交流を描いた「未完の対局」という作品を撮っている。DVDが無くて最近新宿TSUTAYA(ここ、よく揃っています)でビデオを借りてはじめて見たが、これもよく出来た労作だ。
戦前・戦後を通じて交流する日中の棋士の話だが、お互いの子供達のロマンスも入っている骨太娯楽作品だ。当然中国ロケが入っている。何より、美術がしっかりしていて戦前の中国の街並みや建物を見事に再現しているのに感心する。それから、中国側の棋士を演じた孫道臨の風格と人間味が滲み出る演技が光った。美男なのに、渋い味が出ているのだ。
それにしても、現在の日中関係の緊張下では絶対表現されないと思われるシーンもあるのに驚く。南京陥落を祝う祭事の中、登場人物が南京大虐殺を非難するし、そういう行為はデタラメと反論する言葉も出てきたりする。とにかく、過去に目をつぶらず、歴史の問題を克服して行こうという作り手の意識が感じられる。
実は、こんな現在の日中関係でも、映画による交流は続いている。アニメ「君の名は」が中国で公開されてヒットしているし、山田洋次監督の2016年の作品「家族はつらいよ」のリメイクが作られたりもしている。タイトルは「麻煩家族」(“やっかいな家族”の意)。
さて、たまには好きではない(?)映画を一本紹介する。
そのリメイク元の「家族はつらいよ」は、東京に暮らす中流のある熟年夫婦の離婚騒ぎを巡るドタバタ喜劇。橋爪功と吉行和子が夫婦を演じ、子供達が西村雅彦、中嶋朋子、妻夫木聡と芸達者を揃えているが、如何せん、話が全く面白くない。あまりに紋切り型、類型的。
と私には思えたのだが、それなりにヒットして(13.8億円)、第二作が現在公開されている。
中国映画についてはまだまだ書き足らない。近く、また、続きを書きます。
(by 新村豊三)