前回、日本の現役最高峰の男優と言える仲代達矢氏のことを書いたので、今度は、女優について書いてみたい。しかし現役最高の女優はなかなか決めにくいところがある。それで、視点を変えて若手のこれからグンと伸びる女優にしてみたい。
日本映画を10年以上見続けているファンなら、安藤サクラが若手のトップを走る女優であることは誰でも分かっている。いや、将来日本映画史に燦然と輝く大女優になっていく可能性も大いにある。
そんなに美人じゃないので(失礼)、出てきたころはあまり注目していなかったが、09年の「愛のむきだし」「愛と誠」「かぞくのくに」あたりから、なかなかいいぞと思い始め、14年の「0.5ミリ」と「百円の恋」では完全にノックアウトされてスゲえなあと思うに至った(13年にはキネ旬で史上初めて主演&助演女優賞のダブル受賞)。
【amazonで見る】「0.5ミリ」監督:安藤桃子 「百円の恋」監督:武正晴
彼女が良いのは、助演も主演もやれる、すなわち、どちらも何でもやれることだ。スケ番姉ちゃんもやれれば、切ない普通の女の子も演じる。「愛と誠」では、学校の建物の手すりから制服姿で逆さにつるされてパンツ丸見えだった。「百円の恋」では、最初ブクブクに太って登場し、一念発起ボクシングを始めてのめりこむ。ラストは本当に本人が殴り合いをやった。
多分、こんな両方をやれる俳優は前代未聞というか空前絶後だろう。動物的カンの良さと天性の演技の才がある「天才」と言っていいのではないか。
と、ここまでは誰でも言える。次からは私的に知っている事を書く。と言っても大したことではない。彼女は人間として愛想がいい、いつも自然体で飄々としている。そこがいい。
私が参加する映画祭に、彼女も時々やって来て、そんなに親しく話はしないもののお互いを認識する位の関係になっていた、あれは、まだ彼女がそんなに演技力を発揮していなかった、2011年の秋だ。
「アントキノイノチ」という映画を渋谷の映画館に見に行ったら、ロビーで後に結婚する柄本佑君と一緒にいるのを偶然見かけた。二人とも別に顔を隠すわけでなく、普通の若者姿。他の客もほとんど気づかなかったのではないか。
サクラさんとちょっと目が合うと、向こうがコクっと会釈してくれた。柄本君は相変わらず茫洋としていた。ただそれだけだけど、嬉しかったなあ。
彼女のデビューは「風の外側」という下関を舞台にした映画の高校生役だった。なんでも予定していた主役の子が急に降りて彼女が主役を演じることになったとのこと。
映画祭で彼女の上映作品を特集した時、上映後のシンポでゲスト席に座る彼女に対して「この作品は、隠れた傑作だと思います」という発言が参加者からあった。そしたら、にこっとして「おとうさーん、良かったねえ」と屈託なく言うのだ。
父親(奥田英二だ)はシンポ会場の後ろの方に座って、恐らく娘がどんなことを言うか気になってその場にいたのだろう。あの、素直さ、天真爛漫さ。ここが彼女の良さであろう。
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さて、好きな映画をもう一本!5月公開の日本映画「追憶」だ。
子供の頃一緒に暮らし、今は別々に暮らす若者3人が再会する(3人はある秘密の事情を共有している)。ところが、一人が遺体となって発見される。嫌疑が友人に掛かり、刑事となっている3人目の若者(岡田准一)は苦悩することになる・・・。
サスペンス映画としてはそれほどではないが、主役・脇役が皆上手く演じており、富山の風景もよく撮れている人間ドラマの佳作だ。岡田准一の映画と思って見ていると、嫌疑を掛けられた小栗旬が一番得な役になる。
安藤サクラはその3人に絡む重要な役を演じている。報道によれば今妊娠中らしい。さあ出産後、子育てをしながらどう役者として変貌していくのだろう。
(by 新村豊三)