現代の韓国の若者、百年前の朝鮮人の若者の青春「バーニング」と「金子文子と朴烈」

韓国映画の力作2本を見た。
一本は現代のソウルの若者をリアルに描き、一本はおよそ90年前の大正時代の日本で生きた実在の朝鮮人とその日本人の恋人を生き生きと描いている。

まず、「ペパーミントキャンディー」や「オアシス」などの名匠イ・チャンドン監督「バーニング」だ。
原作は村上春樹の短編「納屋を焼く」。もう20年以上も前から村上春樹や吉本ばななは韓国で広く読まれている。都会生活の哀歓や鬱屈はどこも同じなのだ。

「バーニング」監督:イ・チャンドン 出演:ユ・アイン スティーブン・ユァン他

監督:イ・チャンドン 出演:ユ・アイン スティーブン・ユァン他

韓国は日本以上の格差社会だ。相当に厳しい。この「バーニング」では3人の若者の日常がリアルに描かれる。田舎を離れてソウルに住みバイトをしながら小説家を目指す男、彼の小学校の同級生でスーパーのセールの客寄せ嬢などをする女の子、そして二人が知り合うことになる超リッチで優雅なマンション生活を送る謎の男が登場する。

映画は小説を書く男が久しぶりに女の子と再会し、その縁で女の子が海外旅行で出会ったリッチな男と知り合う、といったくらいの話しかない。しかし、これが現在のソウルの等身大の若者の姿であるようで、画面に引き込まれる。
主人公は現実に失望することもなく淡々と生きている。母親はとっくに家を出てしまっていて、田舎の実家に帰っても父親が公務員に暴力をふるって裁判を受けている。そんな日常だ。
何だか、日本と同じように上手く行かない現在を写しているようでとても面白い。映像も美しい。特に、女の子が夕暮れの薄闇の中で上半身裸になりゆったりと踊るシーンは素晴らしい。
惜しむらくは終盤、女の子が失踪してしまいミステリー的様相を帯びてくるが、これが今一つ上手く行っていない感じを持った。ラストも、村上春樹の原作にはない。しかし、これはイ監督の成熟を感じさせた力作であることは間違いない。

「金子文子と朴烈」監督:イ・ジュンイク 出演:イ・ジェフン チェ・ヒソ他

監督:イ・ジュンイク 出演:イ・ジェフン チェ・ヒソ他

「金子文子と朴烈」は実は公開された一昨年釜山で見ている。日本の幾つかの雑誌に反日映画として紹介されたので自分の目で見たくなって九州に行ったついでに釜山へ渡航して見た。見て余りの面白さに興奮して、反日云々の問題なんて吹っ飛んで、帰国後映画好きの仲間にずいぶんと触れ回った作品だ。

日本が朝鮮を併合していた時代、浅草で暮らす朴烈と、彼の詩を読んだ文子が出会うも、関東大震災が発生する。混乱の中で朝鮮人虐殺が起き、事件を隠して人々の眼をそらせるために内務大臣の指示で、朝鮮人や社会主義者たちが検束されてしまう。二人は爆弾による皇太子暗殺を企てたとして大逆罪に問われ、拘置所で取り調べを受けた後、裁判を闘ってゆくという史実に基づく話だ。

断っておくが決して暗い映画ではない。全く逆で、信念をもって生き生きとかつ伸びやかに闘う二人に爽やかさを感じるほどだ。
脚本がよく練られている。上は内閣から下は庶民まで人物が多層的に描かれる。実在の内務大臣は憎たらしい程狡猾だ。一方、朴を取り調べる検事や日本人弁護士は良心的だ(検事は別々の牢にいる二人を会わせてあげる計らいをして文子が朴の膝の上に乗る写真まで撮らせたりする)。
裁判長は権威主義的で、二人と市ヶ谷の牢で接する看守は初めこそ権力を振りかざすが段々と二人に理解を示すようになる。ここらへんもとても面白い。

朴はハンストにより自分の主張を通させ、正装である韓服で裁判に登場したりする。裁判がお祭りのように明るいものになる。裁判では人々を抑圧するシステムとして天皇制批判を堂々と述べる。これには心底驚いた。日本映画で戦前の天皇制を鋭く批判した映画があっただろうか。

特筆すべきは二人の演技だ。特に文子役のチェ・ソンヒは伸びやか天真爛漫で、しかも意地もある人物を演じ切り、日本語も完璧に話して真にお見事。

監督は正統派監督のイ・ジュンギ。一昨年には「空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~」を撮るなど、史実を重視して誠実な映画を作り続けている監督だ。

(by 新村豊三)

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