アジア系アメリカ人監督の映画「ミナリ」「ノマドランド」

アカデミー賞作品賞の有力候補2作品を見たが、とても面白い。脚本・監督は、韓国系アメリカ人リー・アイザック・チョンと中国生まれでアメリカに移住したクロエ・ジャオ。アジア系監督の進出に眼を瞠る思いだ。

「ミナリ」監督:リー・アイザック・チョン 出演:スティーブン・ユァン ハン・イェリ他

「ミナリ」監督:リー・アイザック・チョン 出演:スティーブン・ユァン ハン・イェリ他

まずは「ミナリ」。ミナリとは韓国語で植物のセリのことである。1980年代、田舎の州アーカンソーで農業を行おうと苦闘する韓国系アメリカ人家族の物語。30代の若い夫婦と、二人の小さな子供の家族は古いトレーラーハウスに住み、広い土地で水源を探し、農業を始めていく。
言語は8割以上が韓国語だ。地味にゆったりと映画は進み、胸かきむしられる様なラストが待つ。土地の人との交流、教会通いなど、かの地における韓国人生活の様々な側面もうかがい知れる。
途中から、妻の母親が韓国からやってくる。この祖母が夫婦の存在を「食って」いる。愛嬌があり、現実的で、前向きでユーモラスなのだ。演じるユン・ヨジョンが巧すぎるくらい。映画の中で良くも悪くも大活躍だ。映画のラストに「全てのおばあちゃんに捧ぐ」と出るが、正にその通りだ。

涙腺刺激映画ではないが、メンタルが韓国人に近い私は、家族が苦労する様子に度々涙腺が緩む。父母は私と同世代だ。場内、笑いも何度も起きた。女性の観客が多く、客席は8割埋まっていた。映画館を出る時、韓国語の会話が聞こえた。韓国でも大ヒットしているそうで、在日の方も沢山見に来ているのではないか。

キネマ旬報によると、この映画はアメリカで熱狂的に迎えられており、その理由は、広大な自然への誇り、子供のようなイノセンスの保持を打ち出したことだ、と分析されており成程と思う。

「ノマドランド」監督:クロエ・ジャオ 出演:フランシス・マクドーマンド デビッド・ストラザーン他

監督:クロエ・ジャオ 出演:フランシス・マクドーマンド デビッド・ストラザーン他

好きな映画をもう一本! 豊かな映画を観たという充足感と共に静かな感銘を受けたのが「ノマドランド」だ。「ノマド」とは、アメリカで、家を捨てキャンピングカーに乗り、定住せず、転々と移動する生活をする人を指す。

ネバダ州に住む高齢の女性ファーンが、夫が病死し、夫の勤務先の石膏工場がリーマンショックで閉鎖になり、暮らした街までが消滅した為、ノマドの旅を始める。
年金受給を拒否し、各地で期限付きの仕事をして金を稼ぎながら、さすらっていく。仕事はアマゾンの配送センター勤務であったり、飲食店であったりする。彼女は自らこの生き方を選び取ったが、貧困のために、こういう生活をせざるを得ない人たちも沢山いる。アメリカの格差の問題も垣間見える。

ファーンは、荒野の一本道にバンを走らせていく。西部劇の舞台だが、これほど、アメリカの荒野や道路や岩山や森林が、カラーで、美しく、厳しくワイドスクリーンに存在したことはなかったような気がする。アメリカの土地は広大であると実感する。
広大な自然を捉えた撮影が素晴らしいが、音楽もまた素晴らしい。ピアノの演奏であるが、時に弦が重なる。本当に繊細で美しい。音楽に強くない私でさえ、この音楽には惹きつけられた。

こんなことは滅多にないが、映画が終わり、画面が黒くなり「nomad land」というタイトルが出て、涙が滲んだ。つまり、劇的なことはあまりない静かな映画なのだが、ファーンの生き方に感銘を覚えたからだろう。
彼女は孤高の生き方を選び取っている。夫とかけがえのない時間を過ごしたのだろう、夫を追憶しながら、さすらっていく。私は彼女のような生き方は出来ない。出来ないけれど、共感と言うか、彼女の生き方を肯定したい。

ヒロインを演じているのはフランシス・マクドーマン。アカデミー主演女優賞を2回受賞している。今回も見事な存在感を示す。運転中、車を止めて立ったまま放尿したり、素っ裸で、河で水浴びしたりする。実に自然だ。
年齢よりも疲れた表情を見せているが(途中で登場する中産階級の姉の方が、苦労がないからだろう、若く見える)、紛れもない、今を生きるアメリカ人、私と同じ時代を生きる人という感じが伝わる。

初日に見たのだが、練馬区豊島園の映画館は11時の回は、ほぼ満席だった。こんな地味そうな映画に。しかも、70代と思しき観客が多い。暗くなって入って来て、指定された席が分からずウロウロ、アチコチ移動した高齢の御婦人二人もいた。嬉しかった。コロナでも、年を取っていても、嗅覚鋭く、ちゃんと見に来ている。映画は必要とされている。映画館よ、映画人よ、収束までもう少しだ、踏ん張れと思った(本音はまだしばらく掛かるだろうが、そう願う)。

(by 新村豊三)

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