新海誠の新作「天気の子」

酷暑が続く。昔はよくあった夕立が来てくれないか、たまには雨が降ってくれないかと思ったりするが、3年前の大ヒット作「君の名は。」(歴代邦画興行収入ランキング第2位!)の新海誠監督の新作「天気の子」は、全く逆で、「祈る」ことで、雨や曇りの天気を晴れにする不思議な能力を持った少女をめぐる話だ。

「天気の子」監督:新海誠

「天気の子」監督:新海誠

この作品は「君の名は。」を超えているだけでなく、今年の日本映画を代表する大傑作だと思う。スケール大きなファンタジーでありつつ、この現代の東京で生きる少年・少女の切ないラブストーリーになっている出色の作品だからだ。

高1の夏、家出して八丈島から船で東京にやってきた少年穂高が、雑誌記事の編集の仕事をする中で少女陽菜と知り合う。東京はずっと曇りと雨が続く異常な気象だ。陽菜はそれを晴れに出来る能力を持っており、やがて、あまりに雨が多いので「天気の巫女」になろうとし、彼女に惹かれる穂高も彼女を追ってある行動を取る、というストーリーだ。

「君の名は。」でもそうだったが、絵(映像)がとても緻密で繊細で美しく、しかも構図もよくて感嘆する。舞台となる東京の街が縦横に――新宿、池袋、田端、六本木など――がリアルに描かれる。看板を始めとして固有名詞もそのまま出てくる。例えば、走る都バスの行き先の表示までも本物そっくりだ。
東京の街の全景を俯瞰で捉えたショットが美しい。例えば、湾岸で開催されるイベントのため、「晴れ」にしようと陽菜が祈ると、雲に覆われた街の上空から光が差して来て、東京の街がゆっくりと黄金の街に変わってゆく。見事な美しさだ。

日常生活を描く際のリアリティも半端ない。例えばチキンラーメンを作るとき、卵の白味と黄身を分け、黄身を麺の丸くへこんだ真ん中に入れるというディテールが、さりげなくもリアルに描かれる。その様々な正確な描写が、全体として、スクリーンの若者が、観客と地続きのこの場所で生きている感じをよく伝える。これによって観客は、「これは自分たちの物語である」という気持を持つのではないか。私はそうであった。

ラブストーリーとしてもよく出来ている。「君の名は。」でも音楽を担当したRADWIMPSの歌に乗って、穂高が陽菜を追って、バイクに乗る、山手線の線路を走る、六本木の廃ビルの階段を駆け上がっていく場面の切なさは素晴らしい。実は2回見たが、2回目もここは胸熱くなる。
ラストについては、見た人の中で賛否両論あると聞く。私は、世界の行く末より個の愛を優先すべきだと思っている。
惜しむらくは人物の顔がやや個性に乏しく平板なことだろうが、これは不問に付す。その代り、声優がそれを補って余りある。少年少女だけでなく大人の皆が役に成りきって演じている。そこもいい。

正直、私は宮崎駿作品を別にして、とくにアニメ映画に強いわけではない。しかし、この作品は、日本のアニメが到達しえた最高の一本ではないかと思う。絶対のお勧めだ。

大洋の王子ホルスの大冒険

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さて、好きな映画をもう一本。
今、NHKで放映中の朝ドラ「なつぞら」は、北海道から上京してきたヒロインなつが60年代に、動画アニメーターとして奮闘しパイオニアになってゆくドラマだ。7月には、せっかく作り上げた初めてのアニメ映画作品が、公開されても子どもに受け入れられず興行不振になったエピソードが描かれた。
これは、1968年に公開された高畑勲の「太陽の王子 ホルスの大冒険」を下敷きにしているのだ。当時私は中2で、さすがに見ていなかったが、今回ツタヤで借りて見てみた。確かに、やや観念的なところがあるし、悪者の悪魔グルンワルドの妹で、重要な役を担うゼルダという少女の人格の多面性は子供には理解しづらいだろう。
しかし、「団結」の素晴らしさを謳った個所もあり、この理想主義こそ高畑勲の持ち味ではないかと思う。また、最初のシーンで主人公のホルスがオオカミの群れと戦うシーンは、今の目で見ると素朴ではあるが、動きが早くとても力がある。場面設計・美術設計をしているのは宮崎駿である。
この辺から日本のアニメ映画が本格的に始まったのだと思うと、感慨を覚える。

(by 新村豊三)

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