1月9日の朝、コンビニの立ち読みで、発売されたばかりの「週刊文春」のシネマチャート星取表を見て驚いた(ごめんなさい。時々は買っています)。
結構辛口の5人の評者全員が、韓国映画「パラサイト 半地下の家族」に対して満点の5つ星をつけている。全員が満点というのは、7~8年に一度の事だ。「ボーリング・フォー・コロンバイン」や「ミリオンダラー・ベイビー」位しか思い出せない。左のページに出ている松江哲明監督の1月のベストテンリストでも「パラサイト」が1位だ。カンヌ映画祭でも韓国映画初の大賞「パルムドール」賞を受賞しているし、いやが上にも期待が増していく。
果たして、見てみるとこれは本当に面白い10年に一度、いや30年に一度の大傑作であった。
監督のポン・ジュノは、映画ファンなら知らぬ人はいないだろう。韓国映画史上に輝く「殺人の追憶」や韓国で大ヒットした「グエムルー漢江の怪物―」などを撮った現在50歳の実力派監督だ。
半地下の家に暮らす、家族4人が全員失業中という貧乏家庭の長男がひょんなことから超大金持ち社長の高2の娘の家庭教師になる。次は、妹が小学生の息子の絵の家庭教師になる。続いて、父親が、母親が……というように、この金持ち家庭に、言わばパラサイト=寄生していくことになる。
しかし、まあ、それは映画なら普通にそんな話もあるだろう。ぶったまげる程面白い展開はこれからなのだ。もっと大きな「ひねり」と「仕掛け」があり、想像もつかない展開になる。お見事と言いたいくらいだが、勿論、それは伏せておく。監督自身が、ネタバレをしないでほしいと呼びかけている位だ。
この映画は、奇抜かつ抜群に面白いストーリー展開に加えて、映画としての表現の質がとても高い。演出もいいし、美術もいいし、演技もいい。加えて、内包するテーマが、現在韓国が直面する格差問題なのだ。今の韓国への皮肉あるいは批判である。しかも、ユーモアもある。劇場で声を上げて笑ったが、笑っているうち笑えなくなり、まさにこれは「ブラックな笑い」と実感する。
俳優全員が存在感ある。それぞれ役にはまっている。敢えて一人だけ挙げると、社長宅で長年家政婦をしてきた初老の女性だ。この人の怪演と言っていい演技は特筆すべきだろう。
監督はシナリオも書いている。堂々たる、これぞ「作家」と言える仕事をしている。天才的才能を持つと呼びたい。昨年度「工作 黒金星と呼ばれた男」という韓国映画がこの25年リアルタイムで見て一番素晴らしいと記したが、喜んで撤回する。この映画の方が上だと思う。
ここまでかなり抽象的な書き方をした。ストーリーに触れたいが、書いてはこれから見る人の喜びを奪ってしまうことになる。書きたいが書けない。この胸の内を分かってほしいと思う(笑)。
一つだけ、映画に直接関係ないが、韓国の事情を伝えたい。15年前に韓国に住んでいた頃、シンチョン(新村)という東京の池袋みたいなところに住んでいたが、地下鉄の入り口には物乞いの人を見かけることがあった。冬場に、売れない海苔巻きをずっと座って売ろうとする老婆もいた。ミョンドン(明洞)という繁華街にはイザリの人もいた。極端に貧しい人がいた。
その後も経済は上手く行っていない。大卒でもきちんとしたところに就職できない人が多い。相当に貧富の差の大きい社会になっていると認識していい。そんな現実を映画は反映している。
さて、好きな映画をもう一本!
家族の父親を演じたソン・ガンホが同じように庶民家族の父親を演じた映画が「グエムルー漢江の怪物―」だ。
漢江(ソウルを東西に流れる河)に在韓アメリカ軍が薬品を流したことから怪物が育ってしまい、人間に危害を加える作品だ。家族は漢江のほとりに暮らしていて、中学生の娘はその怪物に連れ去られてしまう。それほどデカくはないが、動きが速い。
ラストは、家族の長女、アーチェリー選手のぺ・ドゥナが、先に火のついたアーチェリーの矢で仕留めるというカッコいいシーンもあった。「パラサイト」の家族の母親は、元ハンマー投げの選手で、その運動能力の高いことを垣間見せている。
(by 新村豊三)
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