大きな幸福感に包まれるフランス映画「シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!」

このコロナの閉塞感の中、劇場で、久しぶりに幸福感に包まれた映画「シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!」を見た。
心から「これ面白かったですよ!」と伝えたい。フランスの人気演劇「シラノ・ド・ベルジュラック」がどのような事情で初演されたのかを描くバックステージ物。原題は劇作家のエドモン・ロスタンの名を取って「エドモン」。

監督:アレクシス・ミシャリク 出演:トマ・ソリベレ オリビエ・グルメ他

監督:アレクシス・ミシャリク 出演:トマ・ソリベレ オリビエ・グルメ他

まず、お芝居「シラノ・ド・ベルジュラック」について。シラノは17世紀に実在した剣術家で勇敢な男だが、鼻がデカい。そのため、好きなロクサーヌという女性がいるものの、自分は身を引き、同じように彼女を愛する友人に尽くしてあげる内容だ。
映画は、19世紀末、若く売れない詩人・劇作家であるエドモン君が、ベテラン男優に頼まれて、急ごしらえでこの芝居の脚本を書くことになる。急なものだから、自分の身の回りに起こる出来事をうまく劇に織り込んでいく。
役者をやっている友人が、好きな人に上手く思いを伝えられず、ある夜、エドモンが建物の下から、上のバルコニーにいる女性に向かって思いの言葉を述べてあげるが(詩的で美しい)、それが演劇の中の台詞になる。また、愛の手紙をその女性と何度もやり取りするが、それも演劇で使われる。

前半、テンポが良すぎるし、カメラがグルグル回りやや慌ただしい時があるが、後半が素晴らしい。
問題が次々に持ち上がる。主役が劇場主に借金を返さないので劇場が使えなくなりそうになったり、若い素人役者が下手で役を代わったりする(その彼が、女性への度胸を付けるために、娼館に行くと、ロシア人のチェーホフがいる件も悪くない)。
極め付きは、お芝居の初演の開演直前に重要な役のおばさん女優が舞台の下に落っこちて芝居が出来なくなる事態だ。身代わりを立てるが、詳しいことは、これから見る方の愉しみの為に控えたい。いやあ、上手いわ。こう来たか。

クライマックスは大変に盛り上がる。カフェの客が詰めかける、娼婦たちも駆けつける、芝居を見ていた客が「すごい芝居だ、見に来い」と、またまた沢山の客を連れてくる。急遽代わった女性が上手く演じられるか、我々映画の観客も、じっと舞台を見守る。
そして、第五幕の素晴らしい「映画」ならではのシーンが来る。大きな木の下で、年を取ったロクサーヌが、手紙を書いたのがシラノだと気づくシーンは、何と、リアル修道院の中で進む、すなわち、美しい「映画」のシーンが進行する。それが、すっと舞台に移動する。舞台、すなわち、静かに食い入るように見つめる観客たちと入魂の演技をする俳優の場に戻る。ここのシーンは、「映画」でしか成しえない素晴らしい「芸術表現」の達成だ。本当にここら辺は、引き込まれて見た。観客と俳優が一体化した舞台に、「映画」を見ながら我々も一体化しているのだ。

スタンディングオベーションで、何回も続く拍手のアンコール。この芝居を見たことはないが、きっと、あの芝居がいいのだろうな。見たくなった。
とにかく、笑って見て最後には涙も滲んだ。映画の楽しさ、喜び、心の涼やかさ、満ち足りた気持、ハッピーな気分、一言でなら「多幸感」と言うのだろうか、そんなものに包まれた。「映画ってやっぱりいいよ」と言いたくなった。そんな映画なのだ。

さて、好きな映画をもう一本!

恋に落ちたシェイクスピア

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「シラノ」を見ていて、当然ながら「恋におちたシェイクスピア」を思い出した。劇作家エドモン君と同じ様に、シェイクスピアが実生活での恋を作品に反映させて名作「ロミオとジュリエット」を書き上げてゆく過程を描いた映画だからだ。
シェイクスピア(ジョセフ・ファインズ)が良家の令嬢ヴァイオラ(グウィネス・パルトロ―)と激しい恋に落ちる。情熱的で切ない話も良かったが、これまた、初日の上映の時に、急に声変りをして(!)ジュリエット役を演じることが出来なくなった少年に代わって、お芝居好きのヴァイオラが急遽その役を演じる展開が素晴らしかった。拍手したい程の上手い脚本だ。
また、威厳と辛辣さを持ち、かつ人間味を見せるエリザベス女王を演じた英国の名優ジュディ・デンチの演技は神技と言いたい程良かった。16世紀の、芝居小屋を含めた街の様子を豊かに表現した美術もいい。掛け値なしの第一級の作品である。日本公開は1999年、「キネ旬」の評論家選出、読者選出、共にベストテン一位に輝いている。

(by 新村豊三)

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