大好きな監督アン・リー(2)「ジェミニマン」「ブロークバック・マウンテン」「ライフ・オブ・パイ」

昨年12月20日の回に引き続き、大好きな監督アン・リーのことを書きたい。
アン・リーの作品で高く評価する作品3本挙げると、「ウェディング・バンケット」「ブロークバック・マウンテン」「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」になる。1本目は前回紹介した。

ブロークバック・マウンテン

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2005年の「ブロークバック・マウンテン」は極め付きの、哀切なLGBT映画の秀作だ。カウボーイハットをかぶった若者二人のドラマだが、二人は同性愛者なのだ。
時代は1963年、舞台はワイオミング州、片田舎の牧場で羊の監視をする仕事についていた二人はお互いに惹かれあってしまう。しかし、時代が時代で、しかもマッチョさを要求されるカウボーイなので、自分たちの気持ちを押し殺したまま、好きでもない女性と家庭を持ってしまうことになる。

二人を演じたジェイク・ギレンホール、ヒース・レジャーが素晴らしかった。
残念ながらヒース・レジャーは「バットマン ダークナイト」でジョーカー役を演じた後、2008年に28歳で亡くなることになるが、荒々しいマッチョの振りを見せながら繊細さを出して名演とされる。(奥さん役を演じたアン・ハサウェイもミシェル・ウィリアムズもその後実力をつけて注目されるようになる)。
この映画は風景を捉えた撮影も素晴らしく、もうアメリカ映画の「古典」になっていると言っても過言ではないだろう。

ライフ・オブ・パイ

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2012年の「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日は、インドからカナダに向かう船が難破してしまい、家族の中で一人生き残った16歳の少年パイが救命ボートで、一頭のトラと一緒に、様々な困難に立ち向かいながら、漂流していく物語である。3Dによる、トラのリアルさも見事であったし、クジラや飛来するトビウオなど忘れがたい映像を作り出し、「ブロークバック」と同じく、アカデミー賞で監督賞を受賞している。美しい驚きの映像にうっとりと心を奪われたことを思い出す。

さて、昨年11月公開の「ジェミニマン」について触れたい。ウィル・スミスが主演のアクション映画。凄腕のスナイパーのウィルが引退しようとすると、組織が彼を殺害せんとこれまた凄腕の若きスナイパーを送ってくる。映画の舞台はアメリカののんびりした海辺の町、コロンビアの雑然とした街、ハンガリーの古都ブダペスト。見る側は風景を楽しみつつ、冴えたアクションを見ることになる。特にコロンビアのバイクのチェイスには目を見張るほどのキレがあり、映画的興奮に溢れる。

ネタバレでもないと思うが、その優秀な相手は自分のクローン人間。つまり現在のウィル・スミスと若きウィル・スミスが戦うのだ。何だかよく似ているなあ、どこから探してきたのだろうと思いながら見ていた。
実は見終わってからそうなのかと気づいたのだが、この映画の見どころは、その製作技術の新しさ。相手もウィル・スミス自身が演じており、フルCGで表情なども完全に自然なものにしたとのことだ。

もうひとつ、技術的な革新があり、3D+in HFRという方式で撮られていて(1秒間のコマ数が60コマ)、人間の目で見るのに近い画像だそうだ。ボーと見ていた感じで言うと、それほど腰が抜けるほどの革新性は感じなかった(尚、3Dで見たわけではない)。
映画の中身に戻ると、ラストの詰めが今一つで、あまりにハッピーに終わりすぎている感想を持った。

好きな映画をもう一本!

グリーン・デスティニー

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彼のアクション映画のベストは2000年の「グリーン・デスティニー」だろう。香港のチョウ・ユンファ、中国のチャン・ツィイーなどアジア圏のスターを集めて、見事な武侠映画を撮った。ワイヤーを多用し、俳優が宙を飛ぶ。壁を上り、水の上を滑走し、木の上で戦う。
「重力の法則を無視している」という表現がぴったりだ。空中でのバレーを見るような美しい動きと剣戟は見て損はない。

アン・リーは、イギリスでもイギリス貴族の映画を撮っている。彼ほど、いろんな国の多彩なジャンルの作品をコンスタントに質高く撮り続けている監督はいないと改めて思う。

(by 新村豊三)

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