映画的興奮に満ちた傑作「フォードVSフェラーリ」とクリスチャン・ベールの諸作品

傑作「パラサイト 半地下の家族」の興奮冷めやらぬ中、また、素晴らしい作品を見た。アメリカ映画「フォードvsフェラーリ」である。1964年のル・マン24時間レースにアメリカのフォードが参加し常勝のイタリアのフェラーリを打ち破る、実話に基づくドラマだ。

フォードvsフェラーリ 監督:ジェームズ・マンゴールド 出演:マット・デイモン クリスチャン・ベイル

監督:ジェームズ・マンゴールド

元ドライバーで今はカーデザイナーのマット・デイモンと、英国出身のドライバー、クリスチャン・ベールがフォード車を改良し準備を進める過程も面白いが、やはり白眉はレースの描写だろう。
ワイドスクリーンに各社の50数台の車が、轟音と共に疾走する。映画的快感と言うべきか、車と映画は相性がよいのだろう、見ているうちにアドレナリンが全開してくるのを感じる。話も面白いので、映画的興奮の極致ともいうべき胸の高まりを感じる程だ。

ル・マンレースとは、13キロを超える同じサーキットを延々と回って速さを競う戦いだ。
スタート時、フォード車のドアが閉まらず遅れを取ってしまうハプニングから始まり、途中、えっと言う展開があったりして、最後の最後までスクリーンから目が離せない。ドライバーだけでなく、現場で整備をするもの、観覧席からレースを見る社長、手柄だけを立てようとする俗物重役などが描かれる。
メカの争いなのに、ここには真に人間くさいドラマがある。また、加えて、主人公二人の男の友情、ドライバーの家庭も丁寧に描かれ、カーレース映画に人間ドラマが上手く融合している。そこがいい。
両社の社長も存在感があって、とても面白い。フォードの社長が一度車に乗せてもらい、あまりのスピードに恐怖感を感じてしまい、車が止まり、笑っているような、泣いているような表情をするシーンにはこちらが笑いを誘われる。

脇も含めて俳優が皆いいが、やはり、ドライバーのクリスチャン・ベールが大きな魅力を放っている。頑固で職人肌なのだ。敢えて書かぬが、レース中に彼がある重大な決断をするのも見ものだ。その決断にはちょっとグッと来てしまったほどだ。

さて、次からはクリスチャン・ベールの事を書く。現在45歳だが、中々息の長い俳優生活を送っている。ご存知のように、デビューはわずか13歳の時で、87年公開のスピルバーグ監督の「太陽の帝国」だ。
第二次世界大戦時、上海の租界地に裕福な親と暮らしていた英国の少年が、日中戦争が拡大する中、上海から避難するときの混乱で親と生き別れになる。日本軍による捕虜収容所に入り、ここで生活しながら、様々な経験をして成長していくストーリーだ。

この映画は、流石スピルバーグの手になる作品で、当時の上海の街並みを見事に再現し、数千のエキストラを使ってデモや混乱の中人々が避難する群衆シーンを上手く撮っていて感心する。(CGの登場はこの後だ)。
オーディションで選ばれた少年クリスチャン・ベールはほとんど出ずっぱりだが、走る、飛ぶ、水に浸かるなど、全身で演技していて存在感抜群。将来演技派俳優になる片鱗を見せていると思う。また、少年なので、戦争の善悪とは別に、飛行機そのものに惹かれてしまうという一面もよく演技で伝えている。

彼は、「バットマンシリーズ」でもバットマンを演じており、今やアメリカ映画界に欠かせぬ俳優となっている。子役で成功した俳優には、「ホームアローン」のマコーレー・カルキンや、「ハリーポッターシリーズ」のダニエル・ラドクリフなどがいるが、どうだろう、大人になって順調に活躍しているとは言えないのではないか。

さて、好きな映画をもう一本!

「3時10分 決断の時」ラッセル・クロウ, クリスチャン・ベイル, ピーターフォンダ

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クリスチャン・ベールが出演した作品に、2009年の西部劇「3時10分 決断の時」という隠れた傑作がある。ラッセル・クロウが演じる無法者を、刑務所行きの汽車に乗るまで護送する牧場地主を演じている。渋い、大地に根を張った寡黙な農夫を演じていた。ラストのガンアクションも良かった。
ここまで書いて、この映画の監督を調べてみたら何と「フォードVSフェラーリ」の監督ジェームズ・マンゴールであった。何だか嬉しい。そう、この監督と俳優は素敵な組み合わせだ。

(by 新村豊三)

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