一回ではよく理解出来ぬクリストファー・ノーランの新作「TENET テネット」

鬼才と言ってよいイギリス出身の監督クリストファー・ノーランの新作「TENET」を見た。しかし、困った。大体のストーリーは分かったものの、細かいところがよく分らなくて、面白いのだが、何だかモヤモヤ感があり、心底「スゴい」とは言えぬ作品なのだ。
新聞や映画雑誌を見ると、やはりプロの批評家でもよく分らず2回見たという正直な(?)記述もあるから、こちらの理解力不足の為だけではなさそうだ。2時間半という長い作品だし、音響もガンガンくるので正直疲れた作品でもある。

東欧のオペラ劇場でテロ攻撃に参加した主人公(デンゼル・ワシントンの息子ジョン・デイヴィット・ワシントン)は秘密組織にスカウトされ、第3次世界大戦を目論む武器商人(ケネス・ブラナー)の計画を阻止するミッションに就く。
この映画がユニークでかつ難解なのは、時間が逆行することである。例えば、銃を撃っても、弾が標的から帰ってくる。また、起きてしまった過去の中に、現在の時点の主人公たちが入っていって、「事実」を変えようとすることも行われる。
核爆発を止めようというクライマックスに至っては、同じ画面に、沢山の「現在」の兵士たちがいて前に進む動きと、「過去」の兵士たちが後ろ向きに進む動きが混在する。理屈が分からないので、納得して愉しめるような出来ないような。

無論、スペクタルとしての見どころは幾つもある。ノーラン監督のバットマンシリーズの「ダークナイト」(2008)でも、ジョーカーが本物のビルを爆発させるシーンがあったが、今回も、オスロの空港で飛行機が建物に突っ込んで炎上するシーンや、高速道路でトラックが車を挟み込み、疾走する車で大事なカバンの受け渡しをするシーンはすべてCGなしのリアル画面である。そこは迫力がある。
ただ、トータル、分からないことが多すぎる。もう一回見てもいいのだが、他にも見たい映画が沢山あるから、今回は、一度でパスさせて頂こう。因みにTENETとは「信条」の意味だ。

傑作揃いのクリストファー・ノーラン監督の作品の中で「インターステラー」(2014)が一番好きだ。
原題は「星から星へ、恒星間の」位の意味。時代は近未来、異常気象などのために食糧が無くなり、人類が大きな危機に瀕している。これを打開するために、NASA(アメリカ航空宇宙局)は、宇宙に出ていき、人類が移住出来ないか調査を続けている。
アメリカ中西部、砂嵐に襲われるトウモロコシ畑で農業をしていた元宇宙飛行士の主人公(マシュー・マコノヒー)は、NASAの研究者やユニークなロボットと共に、宇宙船に乗って探索の旅に出かけていくことになる。妻は亡くなっているが、高校生の息子とミッションに反対する娘を残して、である。
ワームホールなるもの(理論的に存在する「時空の虫食い穴」)をくぐり抜け、海の惑星、氷の惑星に到達していく。ここが面白いところだが、相対性理論によって、ある惑星の1時間は地球の7年に相当する。主人公は何とか早く地球に帰還したいのだが、なかなかそうはいかない。

インターステラー

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この映画が優れているのは、壮大なスケールの宇宙SF映画でありながら、子供や恋人を思う人間の「情」の部分が上手く出ているからだ。この映画も、「TENET」と同じく、全部理屈が分かるわけではないのだが、悠然とした演出で進むので、それほど混乱することがないし、ヒューマンなタッチにより感動までが生まれるのだ。
特に、敢えて詳しく書かぬが、映画の終盤、主人公が五次元の世界(!)に迷い込み、ある人にメッセージを送ろうとするシーンには心打たれてしまった。その空間の造形も素晴らしく、これぞ、「視覚」を持った映画でしか作りえない芸術表現だ。ここだけでも映画史に残る。この映画は20世紀の名作「2001年宇宙の旅」(68)に匹敵する、21世紀SF映画の傑作だと思う。

さて、好きな映画をもう一本!

ダークナイトライジング

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バットマンシリーズの3作目「ダークナイト ライジング」(12)も素晴らしい。「ダークナイト」とは「暗い夜」ではなく、Dark Knight即ち「闇の騎士」でありバットマンを指す。
ゴッサムシティを核爆弾で破壊しようとする悪の一味を、キャットウーマン、街の警察と阻止しようとする。重厚でリアルな絵づくりが素晴らしい(アメフト競技場の崩落シーン!)。街を疾走する単車や、空を自在に飛ぶ乗り物(武器でもある)が愉しい。
初めて見たのは2012年。街の破壊に、「9.11」と前年の「3.11」の記憶が重なった。

(by 新村豊三)

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