周知のとおり、今年のアカデミー賞は韓国映画「パラサイト」の圧勝であった。作品賞まで取ってしまい、大変に驚いた。背景として、アカデミー会員がアジアの映画関係者にまで広がって来た(例えば、日本の俳優仲代達矢が会員になった)こと、候補作が白人の作品ばかりだったので、非白人を尊重する「多様性」を出そうとしたことが、この映画に有利に働いたという指摘もあるが、作品自体が抜群に面白かったことが一番の理由だろう。
さて、作品賞候補の中に、可愛くてしかも社会性もあるユニークな戦争映画があった。ニュージーランドの監督が撮った「ジョジョ・ラビット」という作品だ。
第二次世界大戦末期、連合国の反撃でナチスドイツの敗色が濃厚になってきた頃、ドイツの地方の街に暮らす愛国少年ジョジョは、ヒットラー・ユーゲントという青少年の組織に入隊し訓練を受け始める。
外国にいる父親、家にいる母親共に、レジスタンス運動を行っているようである(因みに、母親役をスカーレット・ヨハンソンが演じていて、この作品でアカデミー賞の助演女優賞にノミネートされた)。
ある時、ジョジョは家の壁の裏に匿われていた自分より年上のユダヤ人の少女の存在を知るが・・・といったストーリーだ。
少年の目から見た戦争モノなのだが、演出がとてもユニークでセンスがいい。
例えば、ジョジョが訓練後、外を懸命に走る時に流れる音楽が、ドイツ語版のビートルズの「抱きしめたい」だ(これが不思議と映画に合っている)。
ジョジョには「空想上の友」のヒトラーがいる。二人は部屋でよく対話をする。このヒトラーはチョビ髭をはやし、身振りも大きく「躁的」でとても面白い存在だ。何と、この役を、監督自身が演じていて驚く。
映画は終盤に至ると、展開がシリアスさとリアルさを増していく。いろいろなドイツ人が登場する。同じドイツ人でも、ナチに協力的な者もいれば、そうではない者もいたことがよく分かる。後者である母親には悲劇が降りかかる。戦場描写も迫力がある。演出も含めて、脚本も書いている監督は相当に力があると思う。
もう一つこの映画で好きなのは、少年の、年上のお姉さんへの思慕の念まで上手く描かれていて、ラブ・ストーリーの側面まで帯びていることだ。そこもいい。
さて、好きな映画をもう一本!
ドイツではないが、戦争末期にチェコ人がユダヤ人を匿うことを巡る、素晴らしく感動的なチェコ映画がある。2000年の「この素晴らしき世界」である。
チェコの地方都市に住む、子供のいない40代の夫婦が、ポーランドに送られる前に命からがら収容所から逃げてきたユダヤ人の若者を匿うことになる。街にはナチス協力者が沢山いて身の危険を感じつつも、夫婦は食料貯蔵室に若者を匿い続ける。
ある時、ある事情から邸宅を追われたドイツ人を家に同居させないために、「妊娠して赤ちゃんが生まれるから部屋がない」と、妻はとっさの嘘をついてしまう。嘘がばれるとナチから追及され、若者を匿っている事実も露見する。
書かないとこの映画の凄さが伝わらないので、「ネタバレ」ではあるが、書いてしまう。奥さんとそのユダヤ人の若者が肉体の関係を持って妊娠しようとするのだ。そしてそれは上手く行く。
クライマックスは、言葉も通じぬソ連軍が街に入ってきて砲撃を続ける中、妻が産気づいてしまう展開。大混乱の状況で、チェコ人同士が助け合って(本当に美しい友情!)、赤ちゃんを出産させようとする。そして、まことに感動的なラストが待っている。
人が生きていくのはかなりの困難を伴うが、やはり美しい営みである、ということを感じて静かで大きな感銘を受けた。
この映画には、夫の知り合いで、奥さんに気があるちょっと品のないチェコ人が登場するなど、とても人間くさい映画ではあるが、部屋に飾ってある聖母マリアの絵も何回か正面から映し出されるのが印象的。この夫婦は、チェコ語でヨゼフとマリアにあたる名前を持つ。
私は無宗教ではあるが、この映画に宗教的・哲学的な意味さえ、うっすらと感じ取ることが出来た位だ。
(by 新村豊三)
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